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ミヒャエル・ハネケと中田秀夫

 

ミヒャエル・ハネケとヒッチコックとスピルバーグは観客の心を操縦できる、というような意見があるが、私にとってはヒッチコックとスピルバーグはそれほどでもなく、退屈な映画も多い。

ミヒャエル・ハネケと中田秀夫の作品で退屈することはない。もっともっとたくさんみたい。あるだけ全部みたい。心を操縦され、操縦されている自分の存在が楽しい。

中田監督の『女優霊』ほど恐い映画はない。ハリウッドでリメイクされても全然恐くなかったから中田監督のすごさがわかる。ハネケ監督も『ファニーゲーム』をハリウッドで自身が監督して『ファニーゲームU.S.A』として完全リメイクしているがオーストリア版の方が役者がずっといい。

ハネケ監督も中田監督も有名な俳優を使う必要はなく、過去の作品による先入観がない無名俳優の方が映画で描く世界が生きる。ハネケ監督と中田監督のような映画には、スター俳優のオーラや華やかさは邪魔になる。

中田監督のホラー映画を映画館へみに行った人ならみんな知っているが、観客の反応が他の映画とまるで違う。恐さに耐えられず、途中で映画館を出て行く観客がいる。悲鳴を上げる観客がいる。小さな物音にびくつき、後ろを振り返る観客がいる。隣の客の腕をつかんだり、話し掛けずにはいられない。ハネケ監督の『ファニーゲーム』も途中で映画館を出る人がいたという。

『女優霊』はみているこちらが気が狂うのではないかと思うほどに恐く思わず笑ってしまうが、『ファニーゲーム』はみていてイライラしてムカムカする。映画の始まりから最後までムカムカしっ放しで、ここまでくると嬉しくなってくる。隣人が卵を借りにきて、それを落とす。人の携帯を水に落とす。頭にきてもう帰ってくれと頼むが、誤解を解くまでは帰れないといって居座る。そのままお父さんとお母さんと息子が監禁され、しつこくいつまでもいたぶられる。何度か逃げるチャンスがあるのになかなか逃げないのも頭にくる。いつまでも壊れた携帯をなおそうとして逃げない。夫婦愛を確認して抱き合い、なかなか逃げないからイライラしてムカムカする。犯人が戻ってきちゃうからすぐに逃げろよ! と祈るようにしてみてやっているのに逃げない。犯人も被害者もみんなムカつく。顔や表情にいちいち頭にきて、そのうちにこの人たちにしかこの役は演じられない大名優に思える。これは中田秀夫監督の作品に出てくる無名俳優たちにもいえ、名画は出演している俳優たちも名優にする。

ストーリー上、反撃のチャンスはあるのだが反撃しない。観客は反撃や逃亡の希望を抱きながら映画をみているのに、反撃せずに家族は3人とも殺されていく。やっと逃げようとして外に出て、通りがかった車に助けを求めたいが、犯人の車かもしれないから声を掛けることができずに木陰に隠れてしまう。思い切って次に通りかかった車に助けを求めると犯人の車で、また捕まる。子供はクッションカバーを顔にかぶされひっぱたかれ小便をもらし、お母さんは裸にされ、足を折られたお父さんは何度も患部を攻撃されて悲鳴を上げる。時には犯人がみている観客に向かって親しげに同意を求めて話し掛けてくるのだから頭にくる。

中田監督の最高傑作『女優霊』をみれば、中田監督全作品をみすにはいられない。他にも面白いものをみせてくれるかもしれない。ハネケ監督『ファニーゲーム』をみれば全作品を確認せずにはいられない。他の映画にも嫌な奴がいろいろ出てくる。

『女優霊』を初めてみ見終わった時、あまりの恐さに「あー恐かった」と首を振った。こちらが発狂したり心臓が止まらないように身構えてみていたのでクタクタに疲れた。その後、何度みてもストーリーには集中できず、ただ、あの転落死した女の子の霊が撮影現場に現れ、それをみた女優が発狂爆笑するシーンを待ち望んでいるので、今だにどんなストーリーの映画なのか知らない。みればみるほど新しく恐い名シーンがみつかる。

名画につかわれる音楽は選曲が素晴らしい。音楽は名画の重要な要素となり、名画がイメージを増幅させて名曲にする。『ファニーゲーム』のネイキッド・シティによる音楽が気分を高める。『女優霊』のバックミュージックも妙に明るくて恐過ぎる。

中田監督の映画もハネケ監督の映画も、全作品が近所のツタヤに置いてあるというわけにはいかないから電車に乗って新宿ツタヤまで借りに行き、郵送返却する。新宿ツタヤには映画の魅力にはまった客が多い。レンタル料金も他店より高い。夜11時に閉まってしまう。普通の品揃えではないから有名人や業界人にも遭遇する。頭がよさそうな雰囲気のある利用客が多い。1度行くと20本くらいみたい作品をみつけてしまい困る。

二人の監督作品は、あの刺激をまた味わえるかもしれないと、最後まで期待しながらみ続けることができる。

『女優霊』を超える作品は出ないにしても中田監督は他にも素晴らしい作品が多いからほとんど映画館で鑑賞した。

『ファニーゲーム』が一番わかりやすいが、一度ハネケの魅力を知れば他の作品全てを楽しめる。また嫌な奴が登場する度にムカムカし期待が高まっていく。(山田)

 

| chat-miaou | 01:01 |
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