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角のところで

 

場ではささいなケンカが多い。みんな酔っ払っているからささいなケンカは絶えず、それを根に持ち、そこから小さな酒場内でグループ分けができたりする。自然に縄張りのようなものができていく。居心地が悪くなった店には行かなければいいが、そんなわけにはいかない。どうしても行きたい。それでも行きたい。理由は様々にあるが、会いたい人がいる、顔をみたい人がいる。行かずにはいられない理由など特になく、習慣になっている人もいる。雰囲気に馴染んで行かずにはいられない。行かなければ一日が終わらないし一日がはじまらない。

行きつけの立ち飲み屋にはそれぞれ自分の定位置がある。いつも同じ場所で飲みたい。

いつも左角で飲んでいるおじいさんがいる。この席はテレビの正面で、おじいさんは新聞を読みながらチラチラテレビをみてホッピーを飲む。この角を確保するために毎日誰よりも先に、開店時間になると店にやってくる。この角はおじいさんの場所だから私も近づいたことがない。

けっこう人気の角らしい。おじいさんより少し若いおじいさんがおじいさんをみて「あー、席取られちゃったよー」と嘆き、それからおじいさんに「すいません、私この場所大好きなんで、譲ってもらえませんか?」と頼んだ。よほどこの角が好きらしい。

おじいさんは「いいよ」といいながら席をつめ「いいけれども…いいけれでも…全く頭にくるんだよ!」と怒鳴ってはしをテーブルに投げつけた。おじいさんもよっぽどこの角が好きなんだ。若い方のおじいさんも「何を!」と怒鳴り返し、おじいさんは怒って店を出ていってしまった。若い方のおじいさんは「心の狭いジジイだ」とブツブツつぶやいた。

悪いのは若い方のおじいさんだと思う。先にいる人の場所を健康上の理由なく譲って欲しいなんて普通はいえない。おじいさんも怒るほどではない。どこにでも変な人はいる。私なら黙って席をつめて、ちょっとしたら店を出る。安酒場には変な人が多いから、たまには不運にみまわれることだってある。店を出ないで変な人の隣で飲んで楽しいわけがない。きっとそのまま話し掛けられ、くだらない話に付き合わされる。

私にも好きな角がある。いつもの立ち飲み屋に行くと、私の好きなテレビの下の角が取られていたから、仕方なくその角の隣で飲みはじめた。

30分ほど飲んでいると、入り口横の角の客が帰り、私の好きな角のおじさんがジョッキと小皿とはしをもって慌てて入り口横の角へ移動した。私も同時に急いでいつもの角にサッとスライドした。

入り口横の角へうつることができたおじさんが「あー、やっぱりここじゃないと落ち着かないんだよねー。飲んだ気がしないんだよねー。あー、一気にお酒がおいしくなる」と喜びのため息をついた。私も彼と全く同じセリフを同時に心の中でつぶやいていた。

彼と私の素早い同時移動をみていたアルバイトのユウコちゃんが肩をすぼめ首をかしげて不審な顔をした。立ち飲み客には角と奥を好む習性がある。(山田)

 

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