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迷惑な客 3

 

電車がなくなり、昔よく通っていた朝までやっている飲み屋を訪ねるとなくなっていた。

なんだか大切な人を失くしたような気持になった。マスターの笑顔を思い出す。

若い人が集まる店で安かった。

かわいい笑顔をするマスターで、いつも明るく笑っている。酒が好きで、人の話を聞いてくれる。

「なんとかやっていけてます」といっていたがやっていけなくなったのだろうか。彼のことを思い出すと、もう他で飲む気がしなかった。

家に帰ってからパソコンで店の名前を検索してみると、お別れ会のようなことをやっていて、もう一年前のことだった。マスターの名前をはじめて知った。何十回も通ったのに、私は彼の名前すら知らず、連絡先も知らない。みなに囲まれ、やはりあのかわいい笑顔をしていた。

その店に通わなくなったのは理由がある。若い客が多いので私の居場所がなかった。始発待ちの客が多い。一杯で何時間もいるような客、電車が動き出すまで寝ている客、会計が1000円以下の人もいる。ボトルキープしていて2000円以下の人ばかりでみなよくしゃべる。そういう雰囲気が私は嫌いだった。

客が私一人で、マスターと二人で飲んだ時、ごくたまに「1000円で朝までねばられるのは正直きついっすね。別にいいんだけど」というようなことがあった。

私をふくめ、みんな自分のことしか考えない。

チェーン店や立ち飲み屋でないかぎり、1000円でやっていけるはずがない。眠いのを我慢して朝まで客を待って売り上げが1000円ということもあっただろう。健康を犠牲にして店を開けてくれていた。客が払う金のトータルが、家賃と仕入れ値より低ければ店は潰れる。

マスターの笑顔の裏側には確実に悲しみがある。怒りもあるかもしれない。憎しみ、厭世、絶望を感じたかもしれない。申し訳ないことをした。50歳を超えたマスターはこれから先どう生きていくのか心配になる。やさしい人は飲み屋なんてやってはいけない。かといって飲み屋以外にできることがない。

店がなくなったのを惜しむ声がたくさんのブログやインスタグラムでみられる。マスターへの感謝の言葉が多い。

客たちの顔を思い出す。みな、マスターに心から感謝しているが金は払いたくない。

いい家に住み、いい車に乗るために飲み代を節約する。その分、マスターの心は傷つく。もう十分わかった。かっこいい酒飲みなんていない。せこくて、しつこくて、酔っ払って意味のない話をして笑っている。どこの店にも失礼な酔っ払いがやってきて、彼らのたまり場となり、やがてやっていけなくなり潰れてしまう。いい店を続けてもらうためには、客もいい客でなくてはならない。

いい店で、いいマスターだったが、最低の客ばかりだった。

また行きつけの店がなくなった。最近は新しい店に入る気合のようなものがない。何十回も経験したがどうせつまらない。いい店には自然に出会う。若いうちに遊びの先輩に連れていってもらって出会うことが多い。どんどん行くところがなくなっていく。

マスターは店と仕事を失ったがもうあんな面倒くさい夜を過ごす必要はない。つまらない話や意味のない話や愚痴を聞かされることなくなった。夜になったら眠れる。私は彼が好きだ。ストレスなく健康でいてほしい。彼と話がしたくて店に通っていた。(山田)

 

 

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