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神保町の昼メシ

 

長く神保町に勤めたので、長く続いている店はだいたいいった。

神保町に勤める編集者は神保町に会社があって本当によかったと日々実感している。本がたくさんあって、メシがうまくて、少し歩くと知り合いに出会って話がはずむ。すずらん通りの東京堂の前あたりで何度も空に向かって「俺は神保町に勤める正社員の編集者だ!」と叫びたくなった。毎日勤めながら遊んでいるのとかわらない。

神保町はうまいものだらけで、特に昼メシがうまい。神保町に勤めはじめた若者や神保町の学校に通いはじめた学生は、まずはてんぷらのいもやととんかつのいもやに感動する。とんかつのいもやのサービスの大根の漬物は甘くてかなりうまい。しょっぱくないからサラダ感覚で食べることができ、熱くてかために炊いたごはんの上にどっさりのせてボリボリ食べる。とんかつと対等にうまい。

神保町に点在しているいもやだが、白山通りからお茶の水方面にちょっと入ったてんぷらのいもや1丁目店の味噌汁がうまい。熱々で、わかめがたくさん入っている。揚げたてのてんぷら、熱々のごはんと味噌汁、夜は空いているからホワイトボードに書かれた本日の野菜天をどんどん追加すしていっても2000円しない。腹一杯にしてからまっすぐ家に帰った。神保町にいる人は誰でも平均30回はいもやにいったことがある。

それから誰でもカレー巡りをし、共栄堂、まんてん、キッチン南海、ボンディあたりは必ず一度はいく。どこも数百円で安くてうまい。

神保町デビューをした人は昼にうまいものばかり食べ、店が無数にあり、次から次に新しい、あらゆるジャンルの店が誕生するから飽きずにいき尽くすということがない。

不思議と、夜はいきたい店が少ないから、神保町の編集者は昼は神保町の会社の近所で、夜は他の街に電車に乗って打ち合わせに行く。

神保町から離れて長く経つと夜もやっぱりうまい。ランチョンのエスカルゴ、ビーフパイ、エビフライ、チキン唐揚げ、エビクリームコロッケ。

セルジュのミックスピザは濃厚で世界一うまいが生地づくりからはじめるから1時間かかる。

寿司政の甘くない鮨。

そばよりてんぷらの人気が高い松翁はバケツに入れた生きたエビを客席でみせてくれ、それから揚げたてをはしでつまんで急いでもってきてくれ口の中がやけどする。2人でいって、白子のてんぷらそば(3000円ぐらい)とえびのてんぷらそば(3000円ぐらい)を頼んで半分づつシェアするのが一番楽しい。てんぷらはシェアできるように切ってある。みな一度いくと誰かを連れていきたくなる。5時半にいけば誰もいないが、6時半には満員で入れず、たぶん今も予約は受け付けていない。よく仕事を抜けて1杯だけビールを飲んだ。

昼、うなぎの今荘が一番のご馳走だった。数か月に一度、うなぎの今荘にいきたくなり、いくと決めたら朝から体調を整え、満席になり列ができる前に、開店時間の11時半に今荘にいった。12時になると満席で入れず、すぐに食べられない。メニューはうな重のみで、大盛を頼む。ごはんの量が違うだけで値段は大盛と並でかわらなかった。並は炊き立てごはんの上に、チョボリチョボリとおいしいタレをかけ、焼きあがったうなぎをのせてふたをする。大盛りは箱から飛び出すほどにそびえた山盛りごはんにジャボリジャボリとおいしいタレがたっぷりふりかけられ、ごはんの頂上にふんわりと焼きあげられたホヨホヨのうなぎをのせ、おばさんが重箱の蓋で山盛りごはんをグッとプレスする。

配られた重箱を開けた瞬間、朝から何も口にしないで本当によかった。セットでついてくる肝吸いも熱々でいい感じだ。山椒を多目にふり掛け、肝吸いをすすりながらかために炊いたごはんに挑んでいくと上あごの皮がめくれた。何口食べてもうまさは続く。ごはんののど越しがたまらない。ずっとおいしいままに、ようやくごはんを食べ終え、最後にうなぎをいっぺんに頬張り口の中が脂っ濃くなり、目をつむって味わう。箱の隅の最後の一粒までおいくいただいた。ひたいにうっすら汗をかいて店を出る。

今荘の話をすると、聞いた人が翌日今荘で大盛を食う。何度も飲み屋で今荘について語り合い、翌日今荘で遭遇した。今荘のうまさは口コミで広がっていく。いかずにはいられなくなる。

3000円は全然高くない。他のうなぎ屋と満足感が違う。前の晩に語り合い、翌朝やはり決意する、朝から腹をすかせ、11時半に熱くておいしいうな重をかき込み腹一杯にする。これ以上の喜びはない。(山田)

 

 

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