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貴重な経験

 
 

通っていたスナックのママが亡くなったと娘さんから連絡があった。体調不良で病院に行った時は既に手遅れで、全身にガンが転移していたという。やはり、健康診断に絶対に行かない人だった。今や2人に1人がガンになり、3人に1人はガンで死ぬのだから健康診断に行った方がいい。早くみつければほとんどのガンは治る。また酒が飲める。ガン保険にも入りたい。

数年前につぶれたスナックだったがよく通った。300回や400回ではない。20歳から36歳まで16年、自分の好きなウイスキーのボトルを持ち込み、水と氷だけもらっていつも2000円だけ場所代を払ってカウンターのはじで飲んだ。あんなことを許してくれた人はあの人だけしかいない。昼も夜もやっているスナックで、ママはいつも店にいて、夜中だろうが、明け方だろうが、電話をするとすぐに開けてくれた。幾晩彼女と腹を抱えて苦しいほど笑ったことだろうか。大晦日はいつもあのスナックで過ごした。彼女がこの世にいなくなってしまいとても悲しい。

彼女との思い出は多い。

深夜に店に寄るとママがいない。

トイレに行くと、向こうを向いて用を足しているママがいて、

「馬鹿野郎…開けんじゃねーよ…」

と困ったようにいったが、悪いのは鍵をしめない彼女だった。

ママの秋田の実家では、妹がスナックをやっているというので遊びに行った。私はママの実家に泊めてもらえた。

深夜に目が覚め、トイレに行き電気をつけると、その時が初対面だったママのお母さんが向こうを向いて用を足していて、

「ギャーッ!」

と悲鳴を上げた。

投げ捨てるようにドアを閉め、寝室に逃げ帰り、そのまま息をひそめて朝が来るまで小便を我慢した。

私は親子二代にわたって女性が用を足している姿を目撃するという貴重な体験をさせていただいた。しかも若くない。ご冥福を心からお祈りする。(山田)
 

 

| chat-miaou | 01:30 |
六本木でボッタクられた



ずっと興味があった潜入取材に挑戦した。

目つきの悪い客引きがいて、以前から泥酔して歩いている私に声をかけてきた。

酔っ払った勢いで彼を訪ね、「1時間3000円でかわいい子ばかり」と何度も確認してからついていくとやはり記憶が飛んだ。

睡眠薬を飲まされたのかもしれない。

こういう経験は二度目で一度目は目を覚ますとおかまのおじいさんが私のペニスをうまそうにしゃぶっていて、あの時も体が動かず、1週間ぐらい体調が悪かった。今回もあの時の気分の悪さに似ている。

目が覚めると朝になっていた。財布の中の小銭は残っていたが札はすべてなくなっている。嫌な予感がしたので朝っぱらからカード会社に問い合わせてみると25万円もカードが使われていた。酔っ払って記憶がなくなることはよくあるが、一晩でこんな大金をつかうことなどない。第一こんなに払えない。

泥酔者をみつけて店に連れて行き、睡眠薬を酒にまぜて眠らせ、その間にカードや名刺を抜き取り、そして戻しておく。売り上げ伝票に名刺を添付し、本人になりすましてサインすればカード会社も正式な売り上げと認めざるをえない。そんな手口は下調べしてあった。

9万円と16万円、カードは二店でつかわれていた。何も覚えていないので、自分でつかったのかもしれない。我ながらあっぱれだが、私はスケールの大きな人間ではない。犯罪のにおいがする。自分でシャンパンや高級ワインを頼んだ可能性は否定できないが、二軒目が特に怪しい。

カード会社のセキュリティ担当者に相談すると、「ひどいボッタクリですね」と同情され、勇気が湧いた。

「一軒目だって9万円なんて普通じゃないですよね、こんなにするわけないじゃないですか」

詳細を調べてもらうと、六本木のキャバクラは3時間いて9万円、六本木で会計を済ませた45分後に新宿で16万円の会計を澄ませている。早い。

「すごいですね…」

思わずつぶやくと、カードを読み込むキャットという端末を新宿から六本木にもっていけばこういうことが可能になるという。しかも新宿の店の六本木店ということにすれば違法ではない。

店の正しい所在地は売り上げ伝票がカード会社に届くまでひと月ほど待たなくてはならなかった。カードの不正使用を請求書がくるまで気づかない人もいる。

恐ろしくなり、泣き寝入りして忘れてしまおうと思っていると、翌日の深夜1時に知らない番号から着信があり、怖いから出なかった。さらに早朝5時にまた別の知らない番号から着信があり、寝ぼけて電話に出てしまうと無言で切れた。

そのまた翌日にショートメールがあり、夜中の電話はボッタクリキャバクラ嬢からだとわかり「覚えてる?」と探りを入れてくる。こちらも「カードをたくさんつかわれた」とだけショートメールで探り返すと「え!!!!!!!!」と驚いたようなメールが返ってきたがどこかわざとらしい。

一週間後、またキャバクラ嬢から「詳細わかった?」とショートメールで探りが入る。なめられるとさらに請求されそうなので警察の名前を出して冷たく突き放すと「ごめんなさい」と返事がきた。

警察もカード会社も積極的には動いてくれないので自分で追及するしかない。酒を飲んでからじっくり一人一人に電話していくが、みなしらばっくれている。怪しい店の共通点は電話に出ても自分の店の名前を名乗らずシーンとしている。

新宿の店に電話すると怒った口調で「ボッタクってない」という。16万円分の領収書を送るようにいうと、店に取りに来いという。

キャバクラ嬢に電話して、あんな変な店に連れていったのは君か、とたずねると「一緒に行っていない」というのだから悲しくてやりきれない。何も覚えていないので怒りのやり場がなく、早朝の無言電話にも折り返すと、変な女が「この間大丈夫だった?」と友人のようになれなれしい。彼女の話によれば、私が大勢をひき連れて新宿に飲みに来たというのだが嘘に決まっている。私は子供の時から人見知りが激しく大勢をみただけで家に帰りたくなる。晩酌は2000円までにしている。みんなグルだ。

「あなた、これは犯罪だよ」と説教しようとすると「自分で遊んどいて、後からそういうこというのみっともないからやめなよ」と年下の女に強い口調で逆に諭され、悲しみが募った。信じたくはないが悪い女は存在する。たくさん存在する。酒場にたくさんいる。高い店にたくさんいる。本当に、悪い女はたくさんいる。

警察の名前を口にするとみな冷静な対応にかわった。私は自分の行動に自信がもてず警察への被害届けを取り下げたが、捜査がはじまればすぐにお金が戻ってくるのかもしれないので強気でいった方がいい。

頭にきたので新宿の店にいくことにした。

その前にカード会社に電話し「これからお金を取り戻しにいきますけど、殺されるかもしれません」といいおくと、ただちに犯罪認定してもらえ、被害額の半額以上をカード会社が事故処理してくれることになった。

カード利用者にはカードの管理義務があるが、明らかに犯罪であること、警察に被害届けを出すこと、など一定の条件を満たせばカード会社が助けてくれる。私は普段、アマゾンで1円本を買いあさるぐらいなので、過去のカード使用履歴をみても異常さは明らかだった。泥酔しておらず、被害日の行動を細かく説明できたらもっとたくさん犯罪認定してもらえた。

ひと月経ち、伝票のコピーがカード会社から送られてきた。やはり住所は新宿になっている。

サインをみて確信した。私はあの日、新宿へはいっていない。

明らかに私の字ではない。私はミミズが笑ったみたいなぐじゃぐにゃっとした漢字でサインするのだが、伝票のサインは丁寧で女性が書いたようだった。そして私の名刺が伝票に添えられていた。

「やはりボッタクリですよね?」「普通、わざわざ伝票に名刺なんてはっつけてこないでしょう? 他の街でも睡眠薬飲まされて覚えてないうちにカードで払わされたって話がきてます。同じように名刺がついていることもあります」

酒に睡眠薬は完全に記憶が飛ぶといわれる。

不正なカード加盟店を排除するためにカード会社にも早急な対応が迫られるが、カード会社ごとに管理している加盟店が違い、店によっては指導できない。

住所を辿って新宿の店を訪ねてみると看板もない人気のない暗いビルの一室で怖くて入ることができなかった。身の危険を感じ、取材を終えた。

名刺を奪われているので彼らは私の住所も電話番号もメールアドレスも知っているが、その後連絡はない。あちらも深入りすると逮捕されるのがわかっている。カード会社の人の話によると、どれも1度きりの犯行で終わる。

みな、最初は繁盛する店をやりたかった。自分ならできると信じていた。しかし、はじめてみると客はこない。家賃も人件費もかかり、借金がかさむ。

私ならこの時点で首をくくるが、彼らは後戻りしない。死ぬぐらいならリスクをしょってボッタクる。街には草食系泥酔者があふれ、一度味をしめるとボッタクリはやめられない。賃金の安い労働なんてやってられなくなる。

彼らが狙うのは泣き寝入りする気の弱い人たちだ。

高額な詐欺にあい、悲しみに暮れている人がたくさんいる。これからはクレーム代行業なんて儲かりそうな気がする。怖くて文句をいえない人にとって、文句をいってもらえるだけで有難いし、被害額の半分でも戻ってきたら舞い上がるほど嬉しい。

悲しいかな、怒らなければ、闘わねば、餌食にされる。

被害額が25万円のままだったら私は今頃自殺していた。少し勇気を出せば取り戻せる埋蔵金はたくさんある。(山田)

| editor | 01:39 |
透明なウーロンハイ

 

開店時間の8時を楽しみに待ち、久しぶりにガールズバーの圭子さん(34歳、2児の母)に会いに行くと、すでに店を辞め、街を去っていた。 

私は平気で突然、1年も2年も3年も店に顔を出さなくなるのでこういう別れが多い。電話もメールもいっさいしない。

圭子さんはどんな店でもウーロンハイしか飲まないかっこいい人だった。ビールもワインも日本酒も全く口にしようとしない。酔っ払った後半はウーロン茶を入れるのを忘れ、ウーロンハイだといいながら焼酎のロックやストレートを飲み、しかも朝8時とか昼12時まで飲み続けた。私は彼女の酒の強さについていくことができずに、泥酔し意識朦朧としながらも、いつも彼女にみとれていた。酒と美食のおかげで年々体が大きくなっていくのをみるのも楽しみだった。それでいて色気を失わない。どんどん太っていくのにキラキラと輝いていた。もう、あんないい女には会えない。

がっかりして、行くところがないので近くの黙って飲める立ち飲み屋に寄ると、ゆかりさんの送別会をしていた。ゆかりさんといっても、私は一度も彼女と話したことはない。立ち飲み屋がオープンしてから私もずっと通っているから15年以上の顔見知りではある。日曜も祝日も営業してくれている無休の繁盛店でよく働く人で、私はゆかりさんのかくれファンだった。酔っ払いのあしらいにすぐれていた。

10年以上前、母の介護をしていた頃、金がない時に2000円持ってよくこの店に飲みに行った。決して話し掛けてこないゆかりさんの存在に感謝した。

結婚するのか、親の面倒をみに田舎に帰るのか知らない。当たり前のようにいつも店にいてくれたゆかりさんが、まさかこの街からいなくなるなんて、とても強い喪失感を覚えたが、事情も聞かず、お礼もいわず、別れもいわず、いつものように黙って店を出た。

新しい人がやってきて、飲み屋さんで働き、去っていく。いい店に出会えたら、できるだけお金をつかうようにはしているが、どんな店もそれほど儲からない。誰かが飲み屋をはじめ、店を開けて客を待っていてくれるからアル中は生きていける。

父の食欲がどんどん減っていく。私だけが取り残されていくような気分になる。こういう気持ちにはそろそろ耐えらなくなってきている。(山田)

 

 

| chat-miaou | 01:41 |
ナンバー1
 
 

知っている人気キャバクラ嬢が店を辞め、独立して一人でスナックをはじめたことがあった。

連日スナックのカウンター席が彼女の指名客たちで埋まった。

彼女はみんなで楽しく飲める店をやりたかったようだが、本気の一人客ばかりが集い、嫉妬がうずまき、楽しい雰囲気になることはなかった。

私も彼女が好きだったが、客たちもそれぞれ魅力的で、いつもカウンター席のはじっこで彼らの話に耳を傾けていた。

プレゼントしたダイヤの指輪を返してくれと真面目そうな若い客がいい出し、彼女は「すぐには出てこないから探しておく」と言い訳した。借金をして勝負に出たのだろう、若い客はいつも切羽詰った顔で酒を飲んでいた。サラ金に手を出して惚れた女にみつぐという普通の人が経験できない最高の思いを味わっておきながら、思い通りの結果が出ないとリセットボタンを押そうとする。人生にリセットボタンはない。そんなことをしていたら先に進めない。人の気持ちは金で買えない。

深刻なやりとりは長期間にわたって続き、彼が帰ると彼女はホッとした表情を浮かべた。

若い客が帰った後そっと、

「売っちゃったの?」

と聞くと、コクリと頷き、おかしそうに吹き出した。ナンバー1ホステスはそれぐらいでないとつとまらない恐ろしい仕事である。

腰の曲がった年老いた母親を連れてくる中年男性や、3人の子供を連れて飲みに来るまだ若いバツイチ男性などもいて、彼らがいったい彼女に何を求めているのか、彼らの言動から目が離せなかった。呆然と彼らにみとれている私を、彼女は「変態だよ」といって笑った。
恐い客もいた。彼女の名前を腕に彫り込んできて、どれほど彼女を愛しているか訴えた。入り口で「店に入れろ」「入れない」でもめていた人はポロシャツの下から極道系の入れ墨がちらちら顔を出した。

億の金額を口にするおじさんや、芸能人との交流を話す業界人、自称作詞家も、自称漫画家も小説家も、彼女の気を引くのに必死だった。

「やさしい人が好き」「面白い人が好き」「一緒にいて楽しい人が好き」という独身美人ママの相手はどんな人なのか興味津津だったが、客と恋愛関係になることはなかった。

十代には暴走族に入り、芸能界を目指したという。小作りでアイドル歌手のような顔をして、着物がよく似合ったので幅広い客層が彼女の虜だった。
が、
30を過ぎたあたりから病気をしたり、急に太りだしてしまい、客足が減った。

客が減るとしつこく店に来るように電話がかかってくるようになり、煩わしくなって私も通うのをやめた。

そして彼女は店を閉め、結婚した。

二人で買い物をしている姿を見掛けた。派手なジャージで、全然やさしそうではなく、たぶん面白くなく、一緒にいればかつあげされそうな、目を合わせたくないタイプの旦那さんだった。(山田)

 

| chat-miaou | 01:52 |
金持ちの気持ち
 
 

安い居酒屋で飲んでいるのはほとんど低所得者だが、何%かお金持ちがいる。

私はいつも一人なので、テレビをみているふりをしながら周りの人たちの話を聞いている。一人2000円で十分飲める居酒屋で億単位の話をする人がけっこういる。
話を聞いていると、お金持ちには共通点がある。親から受け継いだ土地の所有者で、駐車場、アパート、マンション経営の話をする。本業の他に資産運用をしており、副収入の方が莫大となっている。会社の給料は25万円なのに、家賃収入が数百万円ある。利益がある程度貯まると銀行と相談し、税金対策を練りながらまた新しいマンションやアパートや駐車場を建設する。

生まれた時からお金持ちなので、成金のように無駄遣いはしない。高い店で飲んだり、銀座で飲むような愚かな真似はしない。お金はつかえば減る、つかわなければさらに貯まる、という基本フォームがきっちりと身についている。誰に言われた訳ではないが、育った環境でそのようになる。親や親戚と同じように、雰囲気や空気から自然とお金持ちの気持ちが身につく。貧乏人は入ってくるお金に狂喜し、すぐにつかって貧乏に戻り、お金持ちは資産を決して減らさない。お金に対する感受性が強いため損得勘定にすぐれ、ギャンブルにはまるようなことはない。たとえ100円でも、負けた時の痛みは常人の想像を絶する。デート代が5000円かかったら全額おごるようなことはせず、「1000円でいいよ」と、少しでもダメージを減らす。
仕事はできるだけストレスの少ないものを選び、残業がないため早い時間から飲んでいる。

もっといい店の方がおいしいけれど、少しでも安い店に行って節約する。生涯でつかう総額は平均よりずっと少ない。

いつも「金がない」と言っている。時計はロレックスで人前でははずさない。

そんなに貯めてどうするのか。安心を買っている。多ければ多いほど、死ぬまで不安なく暮らすことができる。

ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』のお金持ちのお父さんもお金を誰にもやらない。

「できるだけ長生きする。だから1円でも多く必要なんだ。年をとるにつれて汚らしくなるから女がよってこない。そこで金が必要になる。自分が楽しむだけのために少しでも多く貯めておく。みんな口には出さないけれど考えていることは一緒さ」
お金持ちは家にはお金をかける。将来子供に相続をする時、住居は
80%資産控除され、相続税対策となるため惜しみなくつかえる。2000円で飲んでいるのに、控除範囲内の敷地面積で、できるだけ広い、できるだけりっぱな家に住んでいる。本当は金を持っているかいないか、住んでいるところと車をみればすぐわかる。快適に金をかけない人はいない。だから家と車に高い税金をかける仕組
みになった。

一緒に飲んでいる貧乏な同僚が仲間の正体を知って呆然としているが、決しておごってもらえない。(山田)
 

| chat-miaou | 01:37 |
かわいい人



スナックの女の子を何度か飲みに連れて行った。

この子が調子に乗り、私の行きつけの店に友達を連れて飲みに行き、私のボトルを空にし、さらに飲み代を私のツケにして、ボトルに「ごちそうさまでした」と書き残した。

とてもきれいな子だと思っていたが、一気に気持ちの悪い汚い女にみえ、それ以来、顔もみたくないから彼女のいる店には行かない。人気があって、性格がいいといわれているが、クソまみれの豚のようだ。

なんでああいうことをするのだろう。金持ちでお父さんがマンション経営をしていて、本人も都内の広いマンションに住んでいる。飲み代もタクシー代もいつも誰かに払わせるが、彼女は私の10倍以上金を持っている。金のないふりをして金を持ち歩かず、人の金で飲み歩き、自分の金は自分のためだけにつかう。そんなことをして得をしていると本能的に感じている。親も兄弟も親戚もそういう人たちだからそうなったのだろう。

「今日は私のことを好きなおじさんのボトルを空にして、友達の分もおじさんのツケにして飲んできちゃった」「で、いくら分儲かった?」

こんな会話をしていないにしても、頭の中では計算している。

流行のきれいな服がよく似合っていたが、今は人の金で買った汚らしいかっこうにみえる。早く交通事故にあってできるだけ長く痛み苦しい思いをしてから死んで欲しい。

嫌々彼女の支払いを済ませると、マスターが、「やさし過ぎるんじゃない?」といった。こいつも駄目だ、こんなことに、やさしいなんていわない。3流で低級で低脳でむごい。

さすがに頭にきて、もうこの店にも二度とこないから「あなたがツケをみとめるから仕方ないだろ、誰がツケていいなんていったんだよ」と捨て台詞を残した。彼女が私の確認をとった、とウソをいったというが、そんなウソが通用する店でもないだろう。こんな奴と話しても無駄だ。こいつも私が払わなければ騒ぎ出す。

美しいとは難しい。この女は美しくなんかない。近いうちに誰からも相手にされなくなり、クソババアと呼ばれる。一度だけ、私にだけ、こんなことをしてしまったなんてことはない。思考回路も行動も、いかにして金を出さないで済むかにのっとり、それが芯から身にしみつき、それが他者からみてどれほど無様か死ぬまでずっと気付かない。そろそろ勘定になると寝たふりをする、トイレに行く。あのような生きる姿勢では大きなバチが当たる。絶対にそうなっている。自然の力に逆らえる人はいない。

私の好きな性格がいいママがやっているスナックがあって、その子を連れて行ったことがある。後日、私がその子について語っていると、

「どこがいい子なんだよ、いい子なわけないじゃんかよ、そんなの少し考えればわかるじゃんかよ、まったく男はしょーがねーなー」とあきれた。

自分の周囲の人間の、ありもしない長所をでっちあげ、聞くに堪えない低レベルな物語をこしらえる。なるほど、いわれてみれば顔がきれいで、若くてスタイルがいい以外には、長所は一つもみつからない。(山田)

 

| chat-miaou | 01:58 |
恐るべきテクニック

 

「銀座のお鮨屋さんなんて行ったことない」

という女の子を久兵衛に連れて行き、色々話しているうちに「私は次郎の方が好きだな」といわれてしまい、(だまされた!)とはじめて気づく。

こちらは久しぶりの鮨屋に緊張しているのに、彼女は場慣れしている。周囲にもそういうカップルは多い。何をどう頼んでいいのかわからず日本酒を飲み続ける男、白身、赤身、ウニ、玉子、最後にかんぴょうといいテンポで頼む女。

いったい彼らはああいうテクニックをいつ身につけたのだろう。

「ドンペリなんて飲んだことない」などといいながら慣れた手つきでシャンパングラスを傾けて感想もいってくれない。

「行ったことない」「飲んだことない」「食べたことない」ということによって見栄っ張りの男に「連れて行ってやる!」という気持ちが芽生えることをよく知っている。ネットで検索しても、そんなテクニックや心理学を公表している人はいないが、私はそういう人をたくさん見てきた。実際、そんな恐ろしいテクニックの持ち主は多い。

「行ったことない」=「連れてって」になると知っている。

「飲んだことない」=「注文して」になると知っている。

計算されている。「お釣りはいらない」といえば、「かっこいい」と返す。本当はかっこいいなんて思っておらず(カモだ)と目が光る。

ドストエフスキーも一番の女の口説き方は、まるで意識しなかったように知らずに口に出たかのように自然に女性の長所を褒める、というようなことをどこかに書いていた。口には出さないがそんなことを考えているなんて人間は本当に恐ろしい。

「かっこいい!」とか「行きたい!」とか大げさにいうとわざとらしくてウソがばれてしまう。自然につぶやくように「かっこいい…」、悲しげに「行ったことない…」というと効果的だ。

私も悪人になる。「行ったことない…」とか「飲んだことない…」と悲しげにいってみた。

おかしなことに相手も「俺も行ったことない」とか「飲んだことない」と同意してしまう。

ああいうテクニックを身につけている人はまずカモを選んでいるのだ。(山田)

 

 

| chat-miaou | 03:01 |
「飲んでいい?」

 

経済成長が完全に終わり、日本の酒場が昔の発展途上国のようになってきている。

どこの店に行っても「飲んでいい?」と聞かれる。

若い頃から馴染んできた酒場の作法として「いいよ」と答えてしまう。遊びの先輩たちもみなそうしていた。

酒が飲みたいのではなく、売り上げを上げなくてはならない。やっていけない。給料が減る。店がつぶれてしまう。誰にも彼にも「飲んでいい?」と聞く声が聞こえてくる。結局それが嫌で客は減り、店はつぶれる。みなが節約している世の中で飲食業は本当に難しい。

彼女たちの気持ちはよくわかるのだが、勇気を出して正直に「やだ!」といってみた。ものすごく嫌な雰囲気になり、会話は止まり、空気の流れが止まり、いたたまれなかった。こんな思いをするくらいなら飲んでいい。断わる客ももちろん多いが、みんなボロクソに陰口をいわれ冷たい目でみられている。それでいて飲み屋の彼女たちは自分の恋人、家族、そしてもちろん自分にもそんな金のつかい方を許さない。客は完全なカモとなった。

若い人が酒を飲まなくなったといわれるが、若い人が正しい。常にプチボッタクリの危険と隣り合わせの酒場より楽しいところを彼らはたくさん知っている。世の中は常に可能性をひめた新しい若者たちのためにある。

私の世代より前の世代は会社の金で酒を飲んできた。そんな人たちの話を自力でがんばっている若い人たちは聞かない。

最近では「もう一杯飲んでいい?」と聞かれるようになった。「いいよ」と答えるしかない。そんなやり取りを繰り返すのが不愉快なので、「適当に飲んでいいけど、そんなに高いと払えない」と答えた。都内のバーは11000円するところも多い。店の人の飲み代が1万円を超えることもある。年に一度親戚の子供にあげるお年玉でさえ5000円にしてもらっているのに飲み屋の女の子に毎回1万円なんて払えない。1杯ならかまわない。長居する時もあるから2杯の時もある。3杯以上から不愉快になる。

もう長いこと銀座に行っていない。私の行くところではなくなった。高い金を払うのが嫌になった。銀座はまだ何も知らない20代の男が冒険して楽しむところなのではないのか。

都内で飲むこともほとんどない。

私のような完全草食系おやじは財布の中身を全て取れられる。ドンペリを勝手に飲まれた時は殺意を覚え、金が足りず、後日銀行振り込みにしてもらい、その店には二度と行かない。あんなことをされても全然楽しくない。つまらない。店の人にシャンパンをふるまう客をたまにみるが、ああいう飲み方は長く続かない。早いうちに酒場から消える。

いい時代をぎりぎり知っている私のような酒飲みは店の人と言葉を交わす必要のない居酒屋を探して飲むしかない。(山田)

 

 

| chat-miaou | 02:01 |
酒場の作法 2



禁酒9日目、もう飲まない。酒より読書が楽しい。

ランチタイムに居酒屋で定食を食べていると、どこの店にも必ず昼から飲んでいる常連客がいる。

メシを食いながら話を聞いていると本当につまらない話ばかりしている。店の人とテレビでみた事件について一つづつ話し、前の晩にコメンテーターが語ったコメントをそのまま自分の意見として事件を分析している。私もテレビばかりみているので彼らの意見の出所がすぐにわかる。

店の人は仕事だが、客はずっと誰かと接して話していたい。行き場は限られているから飲み屋に行く。テレビ以外ではパチンコの話をする。彼らの姿が自分に重なる。

酒の世界はたかりばかりで、ぼったくりが多くて嫌になる。

「一杯飲んだら?」

と挨拶がわりに言い続けてきたが、もうやめた。飲みに行かない。

若い女の子がはじめたすいている居酒屋で一杯すすめたら、「お母さんにもいい?」となり、手伝いに来ている人や飲みに来ているその子の友達にまでおごらされた。

「また飲みましょうね」

二度と行かない。話が合わず、全然楽しくなかった。

どうしても金をばらまきたいハゲおやじにみられてしまい、2000円で飲める店で1万円払う。

「中トロのお刺身食べてもいい?」と店の人に言われ、勇気を出して断った。酒だけでなく、つまみまで、どんどんエスカレートしていく。

値段をいわずに1万円のワインを開けられたこともあるし、5万円のドンペリを開けられたこともある。どうかしている。
なぜ私は酒飲みが正しいと信じ込んできたのか。好きな作家の影響が大きいが、
45歳を過ぎると酒飲みがかっこいいものではないとよくわかる。かっこいいどころか、みっともない。いつまでもこんなことをしている場合ではない。作家と身分が違う。収入が違う。環境が違う。付き合う人が違う。私のような人間がたくさんいて、作家は本が売れてやっていける。
アル中は何でも酒とむすびつけ、結局酒を飲む。しかも人の金で飲もうとする。
「人につかった金はめぐりめぐって自分の所に戻ってくるようになっている」「俺はそういう人間だ」
人の金で飲んでいる分際で、大きなことをいう。年上というだけで威張っているが、学ぶところは何もない。

銀座のクラブで作家が自腹で飲むと2万円で、その作家が編集者と二人で出版社の経費で同じクラブで飲むと10万円になる。作家は打ち合わせは仕事として経費で落ちるのだから自分で払う意味がない、と平気で書く。作家におごってもらって感激したという編集者の話は聞かない。

酒場の女性は金の話を嫌う。料金を確かめると露骨に嫌な顔をする。何もいわずに金をばらまくハゲおやじを歓迎する。自分の恋人にはそんな金のつかい方を絶対に許さない。

酒場に金をつかいたくなくなった。

一人黙々と勉強をする人に憧れる。(山田)

 

| chat-miaou | 01:30 |
酒場の作法 1
 

酒場の作法がおかしくなってきている。これまでの作法が通用しなくなってきている。

「一杯飲んだら?」

の一言が常連客への第一歩であった。

銀座のバーで、カウンターに立つアルバイトの女の子に声をかけると、「好きなの飲んでもいいですか?」「どうぞ」となり、なんと、ドンペリがあけられた。

自分からいっておきながら断るわけにいかないのだが金が足りず、店主に相談して後日請求書を送ってもらうとドンペリは5万円もした。そんなつもりで声をかけたのではない。

新宿のスナックで、カウンターに立つママに声をかけると、「女の子たちにもいいかしら?」となり、アルバイトの女の子たち5人と乾杯させられた。

金をばらまきたいのではない。若い女の子としゃべりたいのでもない。あちらは「また飲みましょうね」などと笑っているが二度と行かない。

気持ちが伝わらない。話にならない。言葉が通じない。これではもうバーやスナックの常連になれず、なりたくもない。一人居酒屋で黙って飲むだけになってしまう。

店の人たちに気持ちよく時間を過ごしてもらえばこちらも気持ちよく飲める。商売なのだからほんの少し多めに支払い、余裕をもって飲みたい。

閉店時間ぎりぎりまで飲むなんていうのも余裕がなくてみっともない。閉店時間の30分前に帰れば、店の人たちも後片付けが楽で早く帰れる。酒場との関係は細く長くがいい。

そういった余裕を心掛けて20年以上飲んできたつもりだが、どうやら私にも余裕がなくなってきている。

ガールズバーの圭子さん(34歳、バツイチ)に「いつも閉店ぎりぎりまでいるよね」といわれてしまった。

圭子さんは、私が酒が強いと勘違いしている。そのためつくってくれるウーロンハイは7割が焼酎で、断るわけにもいかないのでそのまま黙って無理して飲んでいると、いつも数杯で意識が朦朧とし、ところどころ記憶が飛ぶ。

圭子さんを相手に「閉店時間ぎりぎりまでいる客って迷惑だよね?」

と酒場の作法を語っていると、

「自分じゃん!」

と指さされ、呆然とした。

私はいつも30分前には勘定を済ませ、サッと帰っているつもりであったが、それは妄想だと笑われた。

ひどくショックを受け、時計をみると確かに閉店8分前の1時52分で、自分の目を疑った。

悲しみが募り、急いで勘定を済ませ、逃げるように店を後にすると、背中越しに圭子さんが、

「無理しなくったっていいんだよー! あと8分いたっていいんだよー! もったいないよー!」

と叫んだ。

階段を駆け降りながら、あと8分圭子さんと飲んでいたかった。(山田)

| chat-miaou | 01:33 |