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貴重な経験

 

通っていたスナックのママが亡くなったと娘さんから連絡があった。体調不良で病院に行った時は既に手遅れで、全身にガンが転移していたという。やはり、健康診断に絶対に行かない人だった。今や2人に1人がガンになり、3人に1人はガンで死ぬのだから健康診断に行った方がいい。早くみつければほとんどのガンは治る。病院に行けば、ガンになってもまた酒が飲める。ガン保険にも入りたい。

数年前につぶれたスナックだったがよく通った。300回や400回ではない。20歳から36歳まで16年、自分の好きなウイスキーのボトルを持ち込み、水と氷だけもらっていつも2000円だけ場所代を払ってカウンターのはじで飲んだ。あんなことを許してくれた人はあの人だけしかいない。昼も夜もやっているスナックで、ママはいつも店にいて、夜中だろうが、明け方だろうが、電話をするとすぐに開けてくれた。幾晩彼女と腹を抱えて苦しいほど笑い合っただろうか。大晦日はいつもあのスナックで過ごした。彼女がこの世にいなくなってしまいとても悲しい。

彼女との思い出は多い。

深夜に店に寄るとママがいない。

トイレに行くと、向こうを向いて用を足しているママがいて、

「馬鹿野郎…開けんじゃねーよ…」

と困ったようにいったが、悪いのは鍵をしめない彼女だった。

ママの秋田の実家では、妹がスナックをやっているというので遊びに行った。私はママの実家に泊めてもらえた。

深夜に目が覚め、トイレに行き電気をつけると、その時が初対面だったママのお母さんが向こうを向いて用を足していて、

「ギャーッ!」

と悲鳴を上げた。

投げ捨てるようにドアを閉め、寝室に逃げ帰り、そのまま息をひそめて朝が来るまで小便を我慢した。

私は親子二代にわたって女性が用を足している姿を目撃するという貴重な体験をさせていただいた。しかも若くない。ご冥福を心からお祈りする。(山田)
 

 

| chat-miaou | 01:01 |
六本木でボッタクられた



ずっと興味があった潜入取材に挑戦した。

目つきの悪い客引きがいて、以前から泥酔して歩いている私に声をかけてきた。

酔っ払った勢いで彼を訪ね「1時間4000円でかわいい子ばかり」と何度も確認してからついていくとやはり記憶が飛んだ。ほとんど何も覚えていない。睡眠薬を飲まされたのかもしれない。

こういう経験は二度目で、一度目は目を覚ますとおかまのおじいさんが私のパンツを脱がして下半身をうまそうにしゃぶっていた。完全にマウントポジションを取られていたのでどうでもいい気分になり、何十分もされるがままだった。隙をみて強引に振り切り店を逃げ出たが忘れ物をしてしまい、恐くて取りに帰れなかった。女性への性犯罪は刑務所にいき、男性への性犯罪は笑い話に終わる。あの時も体が動かず、1週間ぐらい気持ちが悪く体調が悪かった。今回もあの時の気分の悪さに似ている。

目が覚めると朝になっていた。財布の中の小銭は残っていたが札はすべてなくなっている。嫌な予感がしたので朝っぱらからカード会社に問い合わせてみると女性がカードをつかった時刻と明細を読み上げてくれ、その額は計25万円で、ゾッとした。酔っ払って記憶がなくなることはよくあるが、一晩でこんな大金をつかったなどということはない。こんなに払えない。

泥酔者をみつけて店に連れて行き、睡眠薬を酒にまぜて眠らせ、その間にカードや名刺を抜き取り、そして戻しておく。売り上げ伝票に名刺を添付し、本人になりすましてサインすればカード会社も正式な売り上げと認めざるをえない。そんな手口は下調べしてあった。

9万円と16万円、カードは二店でつかわれていた。何も覚えていないので、自分でつかったのかもしれないが、私はスケールの大きな人間ではない。犯罪のにおいがする。シャンパンや高級ワインを頼んだ可能性は否定できないが、二軒目が特に怪しい。

カード会社のセキュリティ担当者に相談すると、「ひどいボッタクリですね」と同情され、勇気が湧いた。

「一軒目だって9万円なんて普通じゃないですよね、こんなにするわけないじゃないですか」

詳細を調べてもらうと、六本木のキャバクラは3時間いて9万円、六本木で会計を済ませた45分後に新宿で16万円の会計を澄ませている。

「すごいですね…」

説明を聞きながら思わずつぶやくと、カードを読み込むキャットという端末を新宿から六本木にもっていけばこういうことが可能になるという。しかも新宿の店の六本木店ということにすれば違法ではない。

店の名前と電話番号はすぐにわかったが、店の正しい所在地は売り上げ伝票がカード会社に届くまでひと月ほど待たなくてはならなかった。カードの不正使用を請求書がくるまで気づかない人もいる。

恐ろしくなり、泣き寝入りして忘れてしまおうと思っていると、翌日の深夜1時に知らない番号から着信があり、怖いから出なかった。さらに早朝5時にまた別の知らない番号から着信があり、寝ぼけて電話に出てしまうと無言で切れた。

そのまた翌日にショートメールがあり、夜中の電話はボッタクリキャバクラ嬢からだとわかり「覚えてる?」と探りを入れてくる。こちらも「カードをたくさんつかわれた」とだけショートメールで探り返すと「え!!!!」と驚いたメールが返ってきたがどこかわざとらしい。

一週間後、またキャバクラ嬢から「詳細わかった?」とショートメールで探りが入る。なめられるとさらに請求されそうな気がするので警察の名前を出して冷たく突き放すと「ごめんなさい」と返事がきた。

警察もカード会社も積極的には動いてくれないので自分で追及するしかない。酒を飲んで気を大きくしてからじっくり一つ一つ電話していくが、みなしらばっくれている。怪しい店の共通点は電話に出ても自分の店の名前を名乗らずシーンとしている。

新宿の店に電話すると怒った口調で「うちの店が? ボッタクってない」という。16万円分の領収書を送るようにいうと、店に取りに来くるようにいわれた。

キャバクラ嬢に電話して、あんな変な店に連れていったのは君か、とたずねると「一緒に行っていない」というからくやしくてやりきれない。何も覚えていないので怒りのやり場がなく、早朝の無言電話にも折り返すと、変な女が出て「この間大丈夫だった?」と友人のようになれなれしい。彼女の話によれば、私が大勢をひき連れて新宿に飲みにきたというのだが嘘に決まっている。私は子供の時から友達が少なく、友達をつくることができず、大勢をみただけで家に帰りたくなる。その夜だけそんな豪快なふるまいができるはずがない。みんなグルだ。

頭にきたから「あなた、これは犯罪だよ」と説教してやろうとすると「自分で遊んどいて、後からそういうこというのみっともないからやめなよ」と年下らしい女に強い口調で逆に諭され、悲しみが募った。悪い女は存在する。酒場にたくさんいる。高い店にいる。本当に、悪い女は存在する。

警察の名前を口に出すとみな冷静な対応にかわった。私は自分の行動に自信がもてず警察への被害届けを取り下げたが、捜査がはじまればすぐにお金が戻ってくるのかもしれないので強気でいった方がいい。

新宿の店にいくことにした。

その前にカード会社に電話し「これからお金を取り戻しにいきますけど、殺されるかもしれません」といいおくと、ただちに犯罪認定してもらえ、被害額の半額以上をカード会社が事故処理してくれることになった。

カード利用者にはカードの管理義務があるが、明らかに犯罪であること、警察に被害届けを出すこと、など一定の条件を満たせばカード会社が助けてくれる。私は普段、アマゾンで1円本を買いあさるぐらいなので、過去のカード使用履歴をみても異常さが目立った。泥酔しておらず、被害日の行動を自信をもって細かく説明できたらもっとたくさん犯罪認定してもらえたはずだ。

ひと月経ち、伝票のコピーがカード会社から送られてきた。やはり住所は新宿になっている。

サインの筆跡をみて確信した。私はあの夜、新宿へはいっていない。明らかに私の字ではない。私はいつもぐにゃぐにゃした汚い漢字でサインをするが、伝票のサインは丁寧で女性が書いたような字で自信をもって私の字ではないと保証できた。カード裏にに書いてあるサインだけは丁寧に書いていて、そのサインを真似したのだろう。それでも字が違う。そして私の名刺が伝票に添えられていた。

「やっぱりこれボッタクリですよね?」

「普通、わざわざ売り上げ伝票に名刺なんてはっつけてこないでしょう? 他の街でも睡眠薬飲まされて覚えてないうちにカードで払わされたって話がきてます。同じように名刺がついていることもあります。銀座とか池袋に多いみたいです」

睡眠薬使用者によると、酒に睡眠薬は完全に記憶が飛ぶという。

不正なカード加盟店を排除するためにカード会社にも早急な対応が迫られるが、カード会社ごとに管理している加盟店が違い、店によっては指導できない。

住所を辿って新宿の店を訪ねてみると看板もない人気のない暗いビルの一室で怖くて入ることができなかった。身の危険を感じ、取材を終えた。

名刺を奪われているので彼らは私の住所も電話番号もメールアドレスも知っているが、その後連絡はない。あちらも深入りすると逮捕されるのがわかっている。カード会社の人によると、どれも1度きりの犯行で終わる。

みな、最初は繁盛する店をやりたかった。自分ならできると信じていた。しかし、はじめてみると客はこない。家賃も人件費もかかり、借金がかさむ。

彼らは後戻りしない。借金を背負うぐらいならリスクをしょってボッタクる。街には草食系泥酔者があふれ、儲かるから賃金の安い労働なんてやってられない。捕まるぎりぎりまでボッタクる。

彼らが狙うのは泣き寝入りする気の弱い人たちだ。警察にいくような客は困る。

高額な詐欺にあい、悲しみに暮れている人がたくさんいる。これからはクレーム代行業なんて儲かりそうな気がする。怖くて文句をいえない人にとって、文句をいってもらえるだけで有難いし、被害額の半分でも戻ってきたら舞い上がるほど嬉しい。

怒らなければ、闘わねば、餌食にされる。少し勇気を出せば取り戻せる埋蔵金はたくさんある。(山田)

| editor | 01:01 |
ナンバー1

 

知っている人気キャバクラ嬢が店を辞め、独立して一人でスナックをはじめたことがあった。

連日スナックのカウンター席が彼女の指名客たちで埋まった。

彼女はみんなで楽しく飲める店をやりたかったようだが、本気の一人客ばかりが集い、嫉妬がうずまき、楽しい雰囲気になることはなかった。

私も彼女が好きだったが、客たちもそれぞれ魅力的で、いつもカウンター席のはじっこで彼らの話に耳を傾けていた。

プレゼントしたダイヤの指輪を返してくれと真面目そうな若い客がいい出し、彼女は「すぐには出てこないから探しておく」と言い訳した。借金をして勝負に出たのだろう、若い客はいつも切羽詰った顔で酒を飲んでいた。サラ金に手を出して惚れた女にみつぐという普通の人が経験できない最高の思いを味わっておきながら、思い通りの結果が出ないとリセットボタンを押そうとする。人生にリセットボタンはない。そんなことをしていたら先に進めない。人の気持ちは金で買えない。

深刻なやりとりは長期間にわたって続き、彼が帰ると彼女はホッとした表情を浮かべた。

若い客が帰った後そっと、

「売っちゃったの?」

と聞くと、コクリと頷き、おかしそうに吹き出した。ナンバー1ホステスはそれぐらいでないとつとまらない恐ろしい仕事である。

腰の曲がった年老いた母親を連れてくる中年男性や、3人の子供を連れて飲みに来るまだ若いバツイチ男性などもいて、彼らがいったい彼女に何を求めているのか、彼らの言動から目が離せなかった。呆然と彼らにみとれている私を、彼女は「変態だよ」といって笑った。
恐い客もいた。彼女の名前を腕に彫り込んできて、どれほど彼女を愛しているか訴えた。入り口で「店に入れろ」「入れない」でもめていた人はポロシャツの下から極道系の入れ墨がちらちら顔を出した。

億の金額を口にするおじさんや、芸能人との交流を話す業界人、自称作詞家も、自称漫画家も小説家も、彼女の気を引くのに必死だった。

「やさしい人が好き」「面白い人が好き」「一緒にいて楽しい人が好き」という独身美人ママの相手はどんな人なのか興味津津だったが、客と恋愛関係になることはなかった。

十代には暴走族に入り、芸能界を目指したという。小作りでアイドル歌手のような顔をして、着物がよく似合ったので幅広い客層が彼女の虜だった。
が、
30を過ぎたあたりから病気をしたり、急に太りだしてしまい、客足が減った。

客が減るとしつこく店に来るように電話がかかってくるようになり、煩わしくなって私も通うのをやめた。

そして彼女は店を閉め、結婚した。

二人で買い物をしている姿を見掛けた。派手なジャージで、全然やさしそうではなく、たぶん面白くなく、一緒にいればかつあげされそうな、目を合わせたくないタイプの旦那さんだった。(山田)
 

| chat-miaou | 01:52 |
誤解


 

スナックでユミちゃんを相手に、昔、私が会社の仲間とソープランドに行くのが嫌で仕方がなかった話をした。

「私の友達もゲイで、同じこといってました。会社でゲイであることをカミングアウトできなくて大変なんですってね」

「その『私の友達も』っておかしいじゃないか。俺はゲイじゃないよ」

「え! 山田さんてゲイじゃないんですか?」

ユミちゃんと知り合ってもう4年も経つというのに、彼女は私のことをゲイだと思っていたなんて初めて知った。

「だってマクロビオティックの話したり、サンドラ・ブロックとかニコール・キッドマンとか、女優の話ばかりしてるし、いつも違う帽子かぶってるし、毛そってるし、女の子になりたい人なのかと思ってた。女の子のお客さんには絶対話し掛けないで男のお客さんとばかりしゃべってるし、結婚しないし」

マクロビオティックの話は、私は消化器系が弱いから興味がある。サンドラ・ブロックは『ゼロ・グラビティ』がとてもよかった。ニコール・キッドマンはマクロビオティックをやっている。40歳を過ぎたハゲ頭に似合う帽子がないので、都内に上京するたびに新しいのを買って、それをかぶってユミちゃんの店に寄る。ユニクロでも買い、デパートでも買い、野球帽も試すが、どれも中年がかぶると頭が悪そうで嫌になる。スーツを着ることがないからシルクハットのようなりっぱな帽子をかぶることもない。毛はそっているのではなく、週1回ハゲ頭をバリカンにする時、胸毛も眉毛も腕毛も一緒に3ミリに刈っている。そうしないとだらしなく眉毛が伸び、Tシャツの首元から胸毛が飛び出す。酒場で若い女の子に話し掛けるみっともないおやじには絶対なりたくないから遠慮している。結婚する相手も金も、生活力もない。

本当の自分は同性愛者なのではないか、と思う人は多いが答えは実に簡単で、同性愛者はマスターベーションをする時、同性を見たり思いながらする。

その後、ユミちゃんが最近みた谷崎潤一郎原作の映画『痴人の愛』の話をした。

「『痴人の愛』のキスシーンは男に口を開けさせて息を吹きかけるんだけど、『瘋癲老人日記』はおじいちゃんに口を開けさせて唾を垂らしてあげるんだよね」

私はマゾヒズムについて語り、マゾヒズムの語源である作家ザッヘル・マゾッホの『毛皮を着たヴィーナス』の話をしていると、ユミちゃんが嬉しそうに、

「へえー、山田さんてやっぱりマゾだったんだ」

と納得した。(山田)

 

 

| chat-miaou | 03:01 |
AV女優の勇気

 

有名人が泥酔し、不良グループに殴られ大けがをし、緊急記者会見を開いたことがあった。記事や本を詳しく読んでいくと、これは自分の身を守るための記者会見だったという。

泥酔して何も覚えていない。もしかしたら、公開されたら恥ずかしい写真や動画を撮られているかもしれない。過去にもそういう事件で大金を脅しとられた有名人がいるという情報がある。

不良グループ側の手記を読むと、この時、土下座写真やみられたら恥ずかしい動画は撮影されていなかった。

有名芸能人はこういう時、記者会見を開いて先手を打つことができるが、一般人はそうはいかない。私もその事件のあった頃、悪いグループと問題があり、泥酔して何も覚えていない事件があった。有名人の事件の影響もあり、なんとなく二日酔いの不安からそんな気分になり、私も写真や動画を撮られていたらどうしよう、という気分になった。

スナックでユミちゃんを相手にそんな話をすると、

「誰も山田さんの裸の写真や土下座している動画はみないと思う」

の一言で解決した。みられる方にとっては大事件だが、実はみる方は暇つぶしになんとなくチェックしているだけで、大した大事件ではない。そういうものに見慣れ、飽きて、深くとらえない。

インターネットをみていると、若くてきれいな女の子たちの丸裸の写真や映像がたくさん出てくる。彼女たちに相談すれば、

「なによ、そんなことぐらいで!」

と言ってくれそうな気がする。彼女たちは局部も肛門も、放尿も、脱糞までしてみせる。我々一般人にとってあれ以上に公開されて恥ずかしい映像はない。有名芸能人も不良グループもどうがんばってもあれ以上の映像を撮ったり撮られたりすることはない。なんだ土下座くらいで!

AV女優たちは今、六本木のキャバクラでアルバイトをし、男たちの憧れの存在になっている。銀座よりも高い料金で、彼女たちに会いに全国から客が上京してくる。これはもう、恥ずかしい仕事とはいえない。

社会の一員として生きていれば理不尽な理由で土下座させられることがある。一人が土下座すればその人ばかりか、仲間も同僚も友人も恋人も会社も家族も救われることがある。

AV女優の勇気に比べれば、土下座なんて恥ずかしくない。

AV女優の勇気により、性欲が満たされ、数えきれないほどの性犯罪が防止されている。アダルトDVDの影響で性犯罪が起こる何倍も防止効果が高い。名作に出会えた時は本当に嬉しく、ため息が出るほどに憧れる。日本人に生まれてよかったと思う。アカデミー賞をあげたい。ノーベル平和賞をあげたい。

そんなことを考えていたら勇気が湧いてきて、自由な気分になり、サウナで堂々と包茎をかくさずに歩くことができるようになった。なんだこんなことぐらいで。(山田)

 

 

| chat-miaou | 02:01 |
予習


 

飲み屋に女の子の友達がいる。友達といっても、私が思っているだけで、あちらは友達だと思っていないかもしれない。電話番号もメールアドレスも知らないし、ただその店に行き、その子と酒を飲みながら音楽の話をする。

「来日公演決まりましたよ!」

いつも話している海外ミュージシァンの最新情報をユミちゃんが嬉しそうに教えてくれた。

「へー」と私は驚いたように答えた。

そのミュージジシャンのアルバムはアイチューンで購入し、何度か聞いて、だいたい覚えたところでアイチューンから削除した。私には音楽を聴く習慣がないので、だいたい聞き覚えた曲はもう聴かないからアイチューンから削除する。本当に聴きたい曲を聴きたいから、常にCD1枚も持っていない。聴きたい曲がみつかったらツタヤに行ったり、アイチューンで買ったりする。そこまでして聴きたいと思える曲を聴きたい。

「来日公演行くんですか?」

とユミちゃんか聞いた。

「行かない」

以前、彼女と共通の他のミュージシャンのライブがあった時も、彼女が、「先月、ライブあったんですよ!」と教えてくれた。

「えっ! そうなの!」

私は、あたかも行き逃してしまったかのような反応をしてみせたが、続けて冷静に「知ってても行かないけど」

彼女が不審な顔をして「本当に好きなんですか?」と聞いた。

本当をいうと好きではない。興味もない。

たぶん彼女が恐がるからいっていないが、実はそれらのミュージシャンは、彼女の影響で買って聴いた。だからといって彼女のことを特別好きなわけではなく、彼女と話すことがないから聴いた。彼女と話を合わせるために聴いた。話を合わせるためにライブに行くのはしんどい。

彼女が話す漫画も読んでみようとして何冊か買ってみたが、どうしても読み進めることができない。全然面白くない。映画もみる。どれも彼女がいうほどには面白くないのだが、チェックしている。もう感受性の尽きた私は20代の彼女についていけていない。最近の私は、これは20年後に読まれているだろうか、という基準で本や映画や漫画や音楽を判断している。20年後にも読まれている、と思える作品は年々減っている。とはいえ、植木等、渥美清、林家三平が好きでたまらない私の判断は現在とずれ、流行を理解できないようでは、新しいものなど何も産み出せず、商業にならない。何しろ、3人がこの世に存在しないと思うだけで悲しくなる。

ユミちゃんと特別に会いたいわけでもなく、他にすることがなく、行くところがないから彼女が働く店に飲みに行き、音楽の話をしている。(山田)

 

 

| chat-miaou | 01:01 |
健康なアル中
 



どれだけ飲んだら体を壊すのか。

手帳をみると年間217日飲み、148日禁酒して、健康診断をパスしている。

だから217日までは飲んでも大丈夫だと思っていたら124日目にひどい痛風になり、痛風結節まで発症した。

よって年間124日以内にする。

酒は一度飲んだら毎日飲みたくなる。ワインなら11本、ホッピーなら7杯ぐらいまでが適量で、それぐらいなら二日酔いにならない。人と飲んだり、都内で飲むといくらでも飲め、記憶がなくなるまで飲んでしまう。はしごなら10軒まで、いろいろトータルで20杯以上飲む。

124日あれば4か月連続で飲める。8月まで禁酒すれば、9月から12月までは酒浸りになれる。

1回飲むと1年で48日。2回なら96日、3回で144日。まだまだけっこう飲めるが毎週禁酒するのは難しい。

禁酒は一度成功し、禁酒モードに入れば長く続く。禁酒初日が1番難しく、後はそれほど飲みたくなくなる。禁酒モードに入るために朝からひたすらメシを食い、飲みたい気持ちを消してしまう。何よりうまい空腹の1杯目を台無しにしてしまう。アル中は空腹の胃袋にしみ込む1杯目の酒のために生きている。よく磨いたグラスを冷凍庫で冷やし、朝から1杯目の環境づくりをはじめている。

アル中と健康を両立させるには定期的な禁酒しかない。禁酒して肝臓を回復させる。禁酒して濁った血液を正常な流れに戻す。

週に一度の深酒程度で壊れるほど肝臓はやわでない。

銀座に尊敬する酒飲みがいる。上客ばかりが集まるバーの店主で、彼女は金曜しか酒を飲まない。

フランス人がボジョレー・ヌーボー解禁日を待つように、釣り人が鮎釣り解禁日を待つように、金曜になると冷凍庫で冷やしておいたウォッカをショットグラスでガンガン飲む。空いたグラスを何度もカウンターに叩きつけ、ぶっ倒れるまで飲む。自分の店で飲み、景気がついたら客を引き連れてよその店をはしごし、ドンペリとウォッカを飲み続ける。朝方道端に大の字になって酔い潰れ、誰かが彼女をタクシーで家まで送り届ける。土曜と日曜は二日酔いで寝込み、月曜に回復して店を開ける。

彼女は恐がって健康診断に行かないが、病院に行った方がいい。安心するために行った方がいい。20年あんな飲み方をする彼女をみているので絶対に大丈夫だ。彼女は間違いなく健康だ。健康でなければあんな飲み方はできない。土曜から木曜までの毎週の定期的な禁酒で彼女の肝臓は年齢より若くピチピチしている。(山田)

 

| chat-miaou | 01:37 |
人違い



昔から人の顔を覚えることができない。名前もなかなか覚えることができない。名前を聞いて2秒後にもう思い出せない。

誰かと飲んでいて、次の店にいく時、タクシーに乗っていて、隣の人が誰だかもうわからない。冷静に考えても誰だかわからない。名前を呼ばないようにしながら会話を続けてもわからない。タクシーから降りて明るいところで顔をみると、やっと「なんだこの人だったのか」と思い出す。

銀座で女性に「お久しぶりです」とよく言われるが、覚えていない。酔っている時間は何もかも忘れる。

酔っていなくてもおかしくなってきている。症状がどんどん悪化していく。

銀座を歩いていると、向こうから着物姿の知っている女性が歩いてきたので、「オッス!」と声を掛け肩をたたいてしまうと、彼女は怯えたように私の顔をみてから走って逃げていった。違う人だった。もちろん悪気はいっさいないので申し訳なくて自己嫌悪に陥り、その女性の働く店に確かめに行くと、人違いだったことがはっきりした。10年以上前から知っている女性の顔さえきちんと覚えることができない。着物だけで判断している。着物だけで雰囲気が似通ってみえ、どの顔も同じにみえ、違いがわからない。

飲み屋に入ると以前一緒に仕事をしていた人がいたので「お、木村さん!」と声を掛けてしまうと、ママが「違う違う! 木村さんじゃない」と教えてくれ、また自己嫌悪に陥った。ママは「いったいどのあたりが木村さんに似ているのだろう?」と不思議がっていたからおかしいのは私だ。

「病院に行った方がいいよ」

という言葉も冗談ではない。そのうち訴えられたり殴られたりするかもしれない。

駅で、幼馴染に遭遇した。

「五郎じゃん! 久しぶり!」
思わず声を掛けると「違いますよ」と冷たく言われ、スタスタと足早に歩き去っていった。また違う。考えてみればもう
10年以上五郎に会っていないのに五郎が10年前と全く同じ姿なはずはない。

テレビをみても同じ顔が並んでいる。人間の顔はみんなよく似ている。もう、人に話し掛けるのはやめよう。どうせ違う。(山田)

 

| chat-miaou | 01:45 |
ゴールデン街の魅力

 

才能が放っておかれることなどない。

たとえば、ゴールデン街に行ってみる。ゴールデン街は話し掛けてくる人たちばかりで、どこも小さな店ばかりで、カウンターのみんなで話をするという店が多い。他のお客さんに話し掛けないようにいわれるようなことはない。

映画関係者や出版関係者がどこの店にもいる。毎日のように業界人と話をすることができる。

誰かに連れていってもらうのが理想だが、どこの店も、新しくて面白い人を歓迎してくれる。1軒が他の店を紹介し合い、広げようと思えば、何軒でも行きつけの店ができる。

24歳の時、有名人が経営するゴールデン街の店に連れていってもらったが、私にはそこは合わなかった。

別の人が連れて行ってくれたもう1軒の店はぴったり合い、毎日通った。今でもボトルが5000円でチャージが1000円だから毎日通える。

なんとか編集部にもぐり込むことができた私は、その店で出会った人の本をつくった。それが私がはじめて企画編集した書籍だった。

文章の才能がある人ならそのまま作家になることだってある。放っておけないほどの美人なら女優にだってなれる。才能さえあれば、仕事のチャンスをくれる人に必ず出会える。

絶対に話し掛けられるからゴールデン街で黙って飲むことはできない。才能を隠すことなんてできない。開花しない才能は存在しない。才能がないから開花しない。長く業界にいるとそういうことがよくわかる。商売になる才能は、開花した才能のほんの数割しかない。せっかく開花した才能も、勢いに乗り遅れればすぐにしおれる。続々新しい才能が開花していく。

1000円の店で大平さんに出会った。大手出版社の大平さんは私に才能を感じてくれたのだが、残念ながら私に才能はなかった。何度もチャンスを与えられたが駄目だった。根気と根性がなく、何よりも人づきあいができなかった。

才能を開花させるために、大平さんは自費で私を銀座、六本木、麻布の一流店に連れていき、有名人たちに会わせた。実は才能がないくせに、夢のような出来事の連続だった。

「銀座覚えとけ」「女はタクシーで送ってやれ」「本物の才能をつぶせる力がある奴なんていねーよ」

大平さんにたくさん教わり影響された。ゴールデン街の1000円の店で偶然隣り合わせただけだった。私は手取り15万円の編集者で、大平さんは発行部数数十万部の週刊誌の編集長だった。

マスターに話したいことだらけの24歳の私の話を隣で聞いていた大平さんが私を放っておけなくなった。間違いは誰にでもあるが、そういうのも確かにゴールデン街の魅力である。(山田)

 

| chat-miaou | 03:01 |
大平さんに教わったこと

 

好きな女は送ってやれ、と大平さんは私に教えた。

「銀座の女を送って、ヤクザがいたら気を付けろよ、でも、今は警察行けばなんでもすぐに解決しちゃうけどな。つまらない世の中になった」

大平さんはいつも飲み屋の女をタクシーで送っていったが、私は疑問だった。飲み屋の女を送っていったって、彼女たちにとっては毎晩のことなので恋愛に発展することなんてない。通い詰めて何度か思いを遂げたという話は多いが、それは恋愛ではなく駆け引きで、彼女たちは駆け引きを商売にしていて、彼女たちにとってタクシー代は必要経費で、領収書をきちんと管理している。私はそういうのがあまり好きではない。だから飲み屋の女は送らず、送らないでいい早い時間に先に帰る。

しかし、大平さんから学んだことは多い。飲み屋の女性を送っていくことはないが、飲み屋で出会った女性は送る。遅くまで一緒に飲んだ女性を送る。大平さんの考えを私なりに解釈、進化させて送る。大平さんから学んだいいところを取り入れる。

電車のなくなる時間まで隣り合わせて飲んだ女性なら必ず送る。平塚でも、立川でも、浦和でも、高円寺でも、どんなに遠くても送る。送り届け、今度はそこから最寄り駅に行き、そこから電車で帰る。35歳以下の人なら、これで2割以上の高確率で恋愛が始まる。

家をみられたくない人や、ストーカーを警戒して家を知られたくない人なら、家の近くまで送る。家の前まで送ってほしいという人もいる。

タクシー車内の密室で彼女はいろいろ考えている。泊めてくれ、と言われたらどうしよう。とっとと帰ってくれなかったらどうしよう、と考えている。

彼女たちは別れ際に必ず右手を差し出して握手する。私は「また飲もう」と言って、連絡先も聞かずに立ち去る。

次に会うことがあれば、それは相性がいいということで、いい関係になっている。

大平さんに教わったことは多い。20代だった私は40代の大平さんの真似をして酒を飲んだ。本当は後輩に奢るなんて嫌だし、女性を送るのもタクシー代がきつい。でも、大平さんがそうしてきたのだから私もやらないわけにはいかない。やる価値がある。夢のようなことが起きる。(山田)

 

| chat-miaou | 02:01 |