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はしご酒




よく冷えた瓶ビールを出す居酒屋をみつけたので毎日通っている。ここまで冷えた瓶ビールは荒木町の寿司金でしか飲んだことがない。キンキンに冷えた瓶ビールは栓を抜くと泡が一気に上昇し、それがふたのようになって、ビールがちょっと出てこない。泡ふた瓶ビールは極端に冷えていて、瓶ビールは極端に冷えていた方がうまい。

寿司金で飲んだら2万円かかるが、新しくみつけた居酒屋は2000円で飲める。しかもすいている。さらに店の人がいっさい話し掛けてこないという好条件がいくつも重なる。こういう店に出会えたら、飽きるまで通えるだけ通う。

冷たい瓶ビールを腹いっぱい飲んでから、次に行く店に迷う。よく冷えた瓶ビールを出す居酒屋は他の酒がうまくない。

あんまりおいしくない居酒屋があり、しかし、そこにはかわいい女の子がアルバイトをしている。初めてのアルバイトで仕事慣れしていない受け応えが面白いから会いに行きたくなるが、注文以外に言葉を交わしたことはない。

薄暗くて綺麗な居酒屋にも行きたい。日本酒と焼酎が豊富で、大吟醸も冷蔵庫で冷えている。つまみもちゃんとしたタコわさびやホヤの塩辛、焼き魚もある。

どうしても1杯目の泡ふた瓶ビールは外せないので二軒行くことになってしまう。

ハムエッグとサバの塩焼きで瓶ビールを3本飲んでから、アルバイトの女の子目当てに次の居酒屋に寄ると女の子は風邪で休みだった。

無駄に熱燗を2本飲んでから薄暗くて綺麗な居酒屋に河岸をかえ、タコわさびとカキフライと大吟醸を頼んだのだが、すぐ後ろの席で子供の誕生会をやっていて、うるさい。おばあちゃんやお父さんやお母さんが子供が初めて自分で箸を使って魚を食べたといって「すごいすごい!」「超感動!」と写真を撮りながら大騒ぎで、迷惑だ。子供も嬉しそうにクネクネしながら照れている。彼らにとってはすごいことかもしれないが、私は全く嬉しくないし、全然すごくないし、少しも感動的でなく、本当に迷惑だった。こんなところで酒なんか飲めない。

ムカムカして、このままでは家に帰れないのでバーに寄り、ウイスキーのストレートを3杯あおったところから記憶がない。

朝、起きるとひどい二日酔いで、手掛かりを求めて財布を調べるとステーキ屋のレシートが出てきて、さっそく吐いた。(山田)

 

 

| chat-miaou | 09:17 |
貧乏神

 

長く店に通っていれば、貧乏神にされたり、福の神にされる。

貧乏神にされることが多い。どちらも偶然でしかないのだが、人は物事の原因を探る習性があり、特に悪いことは自分のせいにはしたがらず、人のせいにする。本当は全て自分が悪い。

一時期、私が店にいると客が誰も入ってこないようなことが続いた。一日の客が私一人ということが多く、ママが私のせいにした。

「山田さんがくると人がこないんだよなあ」

と嫌な顔をされたので他の店にいき、その話を愚痴ると、その店でも客が全く入ってこない。

「その話、人にしない方がいいよ」

普段から客が多い店でもないのに完全に貧乏神にされた。「おはらいにいった方がいいよ」とまでいうママもいた。

福の神にされたこともある。

こういう時期は私が一番客で、その後にすぐ客が続く。

日曜日の夕方6時にスナックに入ると、一人客や二人客が直後に続き、40分もすると10席あるカウンターが埋まってしまい、新しい客が入れない。

「何? 何? 外はどうなってるの? お祭りか何かやってるの?」

暇な店が突然混み、ママが焦った。

そういうことに過剰反応する店主は多い。毎日売り上げを計算しているから敏感になる。みんな大変なのがよくわかる。

「山田さんがくるといつも混む」といわれ、私は四郎さんと呼ばれるようになり、ありがたがられ、甘い物をお供えされた。

夜中の1時にそのスナックに入った。客は私一人だった。

「あ、招き猫がきたから混むかな」

ママが嬉しそうに腕まくりすると、夜中の1時を過ぎているというのに1人客や2人客が続々入店し、40分もすると店内がガヤガヤして、煙草の煙で曇っている。

「何これ? 恐いよ、招き猫どころじゃないよ、仙台四郎の生まれかわりだよ、シルエットも似てるし」

ママがあまりの異変を恐がり、さすがに私も恐かった。

夜中の2時に私の直後に団体客が入ってくるようなことも何度か続いた。毎回あまりにも混むので台風直撃の日にママからメールがあり、実験するように店に行って客を待ったが、さすがに台風の日は私以外に客は1人で、短かった神話が崩れ、私はまた貧乏神に戻った。(山田)

 

 

| chat-miaou | 01:01 |
3冷ホッピー

 

酒はキンキンに冷やして飲みたいが、なかなかキンキンに冷えた酒は飲めない。荒木町、寿司金の瓶ビールはキンキンに冷えているが寿司金の鮨は2万円する。

私は味がわからない人間なので、キンキンに冷えた酒を飲むと感動する。キンキンに冷えているだけでみんなうまい。冷蔵庫も強くなければならないし、長時間冷やさないとそこまでは冷えないのでキンキンに冷えた酒はなかなか飲めない。

ビールも、生酒も、ホッピーもキンキンに冷えたのを飲みたい。

朝から「今日は飲む」と決めていて何も食べずにやっと夕方を迎え、1杯目がぬるいとがっかりする。それまでの一日がなんだったのか、という気分にさせられる。

家でなら飲める。家の冷凍庫でグラスを凍らせ、前日から冷やした酒を飲めば完璧だが、家で飲むとうまくないし楽しくない。飲みに行くのが楽しい。

完璧なホッピーを飲ませる店がある。完璧な3冷ホッピーを飲ませる店がある。

3冷ホッピーとはホッピービバレッジの社長がすすめたホッピーのおいしい飲み方で、1よく冷えたホッピー、2よく冷えた焼酎、3乾いたジョッキを冷凍庫で凍らしたものをいう。

400円の飲み物でここまでしてくれる店はなかなかない。客が多いから注意が行き届かず、乾いていないジョッキを凍らせ、飲んでいるうちにジョッキがビジョビジョになる3冷ホッピーもある。ジョッキ専用冷凍庫にせず、他の食材や冷凍庫の変なにおいがジョッキにしみついている3冷ホッピーもある。専用冷凍庫がないとうまい3冷はできない。冷凍庫独特のにおいやぬか漬けのにおいやキムチのにおいがついてしまったりする。

「ここの3冷ホッピー、本当においしいですね」

思わず店の人に感謝の気持ちを伝えると、ホッピービバレッジの先代の社長のいう通りにしたのだという。偉い。

はじめて3冷ホッピーを飲んだ時は感動した。

銀座のバーと同じレベルに乾いたジョッキを3冷ジョッキのためだけの冷凍庫で凍らす。冷凍庫の中には凍ったジョッキがずらりと並ぶ。3冷ホッピーの注文が入り、冷凍庫の扉を開けると白い凍った煙が流れ出てくる。手慣れたママが鼻歌を唄いながらジョッキをつかみ出す姿はロックスターのスタンドマイクさばきのようでほれぼれする。エアロスミスのライブでスティーブン・タイラーが登場して1曲目に「ラブ・イン・アン・エレベーター」を唄う、会場のボルテージがマックスとなる。いよいよはじまる、期待が高まる。冷凍庫にはジョッキ以外何も入っていないから無臭で、ジョッキの中には南極の風のような白い煙がまだ漂っていて興奮する。早く冷たいのを飲みたい。ママが握ったジョッキの取っ手の上の部分だけが溶けているのが職人技で素晴らしい。そのジョッキによく冷えた焼酎を入れ、よく冷えたホッピーを1本全部注ぐ。氷を入れないでちょうどジョッキのふちまでまんぱんになる。息を大きく吸い込んでからそれをできるだけ一気に飲む。冷た過ぎて3分の2までしか飲めず、涙目になる。本当にうまかった。

どんなつまみにも合うが、こういう店はつまみも気がきいている。まずは3分の2飲んで、それからとんかつソースをたっぷりかけた揚げたてのアジフライや叩いてタレをからませたキュウリやポテトサラダを食べながら続きをのんびり楽しんだ。

本当に感動したから20日連続で3冷ホッピーを飲みに通った。1年ぐらい通った。朝から3冷ホッピーのことを考え、食事を減らし開店時間の3冷ホッピーに合わせて体調を整える日々だった。店に入ると、のどを鳴らしながら3冷を頼んだ。3.11の大地震の日も3冷ホッピーを飲みに行った。(山田)

 

 

 

  

| chat-miaou | 01:01 |
最高の店に出会えたら

 


煮込み屋はレモンサワーがうまい。グラスも冷え具合もベストの状態で、つまみもレモンサワーに合う。豆腐一丁冷奴、ネギ味噌、湯豆腐、モツ煮、モツ焼き、ネギ焼、枝豆に合う。しかし、煮込み屋は立ち飲み屋であり長い時間ボーッとすることができない。トイレが外にあり、寒くて行くのが面倒くさい。我慢できなくなってトイレに行くと並んでいて、いい気分が台無しになる。

一方、モツ屋のレモンサワーは煮込み屋のものと材料は同じなのだが、なぜか煮込み屋の方がうまい。煮込み屋のグラスと店の雰囲気がレモンサワーに合う。しかし、モツ屋は一人でテーブル席でのんびりできるし赤ワインがある。ネギ味噌、玉ネギ焼き、エシャレット、オニオンスライス、らっきょうなどネギメニューが充実している。

煮込み屋のレモンサワーがモツ屋で飲めれば完璧だが、世の中そんなに都合よくできていない。二店通うしかない。

よく「こんなもん、家で食えば100円もしない」という人がいる。どうでもいい店になら正しい意見だが、好きな店には正しくない。

店のメニューには人件費や家賃が上乗せされている。儲けが出なければ店の人は暮らしていけず、店をやめてしまう。

やめられてしまっては困る。いい店の客たちを観察していると、そういうことを考えている人が高いものを頼むようにしているのがよくわかる。

いい店をみつけたら、変な人を連れていってはいけない。変な人がいると店の空気がにごり、雰囲気がかわって何もかもまずくなる。いい店ではなくなってしまう。変な人を連れていくより一人で地道に通った方がその店は長く続く。

銀座に最高のバーがあり、この店の経営が理想だ。この店で最高の思いを何度もしたので、なくなっては困る。貧乏な私は大金は払えないが都内に出れば顔を出す。少しでも売り上げに貢献して、長く続いて欲しい。店主が一流にも三流にも誰にでも親切で、紹介制なので変な客がいない。

ここではいつも誰かがシャンパンを飲んでいる。1本5万円のシャンパンの売り上げだけで店はやっていけるのだと聞いた。特にシャンパンが飲みたいわけではなく、この店がなくなってしまっては困る人たちが値段の高いシャンパンを頼む。シャンパンは居合わせたみんなで飲む酒なので、私ごときがドンペリに飽きた。

これまで何軒もいい店を失ってきた。久しぶりに飲みに行き、その店がなくなっているとしばらく絶望する。二度と会うことのない店の人たちが大切な存在であったとあらためて気づく。

いい店をみつけたら後悔しないようにできるだけ通う。少しでも長く店が続くようにせっせと通い、できるだけ金をつかう。
飲み屋は儲からない。飲み代を払うとともに維持費を払う。

これまで何度も自制してきたが、振り返ってみればもっとのめり込んでも大丈夫だった。体を壊すほど飲む度胸もない。スケールの小さい人間なので、体力の続くかぎり飲んだって自己破産すらしない。(山田)

 

| chat-miaou | 15:51 |
広島ラーメン

 

一指禅というラーメン屋があり、私は目が悪いから一指輝と読んでいて、メニューをみて「イッシキラーメンください」というと店員が「イシゼンラーメンですね?」といい、隣のおやじがラーメンを噴き出した。正式にはイッシゼンと読むらしい。意味は知らない。今、考えてみたらイッシキなんて呼ぶ人は私一人しかいない。それまで誰も注意してくれなかったので10回以上は間違えて、店内にひびきわたる大きな声でイッシキと自信たっぷりに頼み、周囲から漢字を思いっきり読み間違えているのに気付いていないおやじとして笑われていたと思うとかなり恥ずかしくて顔が赤くなる。

みんなもっと簡単な呼び方にしてほしい。日本酒の名前なんてことごとく読めず、同じ日本人なのに注文する度にメニューを指さして「これ」なんていっている。日本人だから漢字を読み間違えるのは恥ずかしい。もうすでに国際化社会ははじまっているのだからラーメンも日本酒も誰でもが読めるR2D2とかC3POなど記号や品番にした方がいい。

ラーメン好きの編集者を地元のラーメン屋に案内したことがある。

おすすめのラーメン屋を聞かれ、私は広島ラーメンをすすめた。

「広島ラーメンなんて聞いたことないね。うん、そこ行こう」

広島ラーメンに着くと、編集者が「へえ、大島ラーメンていうんだー。楽しみだなー」といった瞬間、私は(ヤバイ!)と気づいた。

広島ラーメンの看板は墨で書かれていて、本当は大島ラーメンと書いてあるのに、目の悪い私は勝手にその崩れた字を広島ラーメンと読んでいて、大島ラーメンは広島とは何の関係のない大島さんという人がやっている普通のラーメン屋らしい。

ラーメン研究家である彼はメニューをみながら、「どこにも広島について書いてないね? これといってかわったところもない」と疑うような眼をして私をみつめたが、私は目をそらし、あいまいに返事をしながら、水を汲んだり、タンメンを注文したりした。

彼はちゃんぽんめんを頼み、私に「ここが広島ラーメンだってどうして知ったの?」と追及をはじめ、かなり恥ずかしくなってきた。私は正直に答えることができず、「店の人が話しているのを聞いた」などととっさにウソをついてしまった。もう後には戻れない。

ラーメンを食べながら彼は「どこら辺が広島なんだろうなー、だしにカキをつかったりしてんのかなー」などとしつこくいって私を困らせた。

(店の人に話し掛けでもしたらどうしよう)

不安でラーメンを味わう余裕もない。

できるだけ話をしないようにして急いでラーメンを食べ終わり、店を出ると、彼は「どこが広島なのかわからなかった」とまだいっている。逆切れしてお好み焼きともみじまんじゅうを投げつけてやりたかったが、もっと刺激的な話題にかえて、広島のことは忘れさせた。

もし彼が家に帰ってラーメンデータを記録しているとしたらそのデータは間違っている。あれは広島ラーメンではない。

なぜあの時正直に自分の間違いを認めることができなかったのか。大島ラーメンを広島ラーメンと読み間違え、何年もずっとそのまま間違え続け、しかも広島ラーメンとして人にすすめたなんて、なかなか恥ずかしくて告白できることではない。(山田)

 

 

| chat-miaou | 01:01 |
銀座の飲み代

 

予約のいらない新富寿し、双葉鮨ならビール1杯、冷酒1杯、お任せの握りで合計1人1万円程度で飲める。久兵衛なら2万円程度、青木は3万円、その他の有名鮨屋は予約が必要で3万円以上かかる。 

文壇バーはボトルが2円、チャージが8500円、ボトルが入っていれば8500円のみだが、私はたまにしか行かないのでボトルを入れず、店のボトルを飲んで1万円払って帰る。カウンターで接客をしてくれる女の子も一緒にボトルを飲むから追加料金はない。

別の文壇バーはボトルが25000円、チャージが1万円だが、私が貧乏なのを知っているから毎回1万円しかとらない。8000円にしてくれる時もある。5000円にしてくれる店もある。業界バーはどこも知り合いしか来ないので「今日は金がないから5000円にして」「いいよ」となる。本当は嫌かもしれないが、毎回値切る訳ではないから許される。安く飲もうとするケチはどこの店でも歓迎されない。嫌いな客には来てもらいたくないから毎回何万円も請求するママも知っている。

銀座は高いといえば高いが、最初のチャージが高いだけで、最初のチャージ以外はとらない。他の街のキャバクラやスナックのように、接客してくれる女の子の飲み代がどんどん加算されていくようなことはないから気持ちよく飲める。実は銀座も他の街も飲み代はあまりかわらない。女の子の高額な飲み代を払わされると頭にくるが、銀座ではそういう思いをしたことは一度もない。

もちろんへんな店は銀座にもある。ドンペリを頼んで10万円とるようなクラブもあるが、普通の人はそういうところに行かないし、そんなものを頼まない。

どんな女性でも花を買っていけば、たとえ数本でも喜ばれ仲良くなれる。飲み屋のママに花を買っていく遊び人が少なくなったので特別扱いされる。ケチとは逆の行為が以前よりさらに歓迎される。花を買って行くのは他の客にも目立って勇気がいるが、どんなに洗練された相手にも通用する。

アットホームな小さなクラブならボトルが1万円、チャージが1万2000円から1万5000円程度、15分いても何時間いても値段はかわらないが、長居する客はもちろん嫌われる。ボトルはホステスにも飲まれるから減るのが早く、2回か3回で入れ替えることになるが、女の子たちの飲み代がぐんぐん加算されていくような仕組みはない。ボトル1万円、チャージ1万5000円、計2万5000円で女の子と飲める。早い時間で店が暇で、客が私1人でホステスが4人つくこともあり、これは全然嬉しくなく、ボトルがすぐになくなる。追加料金をとることがないから長居が目的で来ている客は必ず陰口をいわれて嫌がられている。普通は1時間程度で帰る。話が尽きず、盛り上がっていれば2時間いても歓迎される。店側もぼったくらないように気をつけているのだからケチケチした飲み方はやめてくれということになる。銀座にいる人は、客も働く人も銀座の魅力を知り、どんどん好きになり、銀座にいる自分へのプライドをもつようになるのが素晴らしい。周囲に影響され、汚い恰好はできなくなるし、言動も変わっていく。他の街にはない銀座にしかないよさは確実にある。何しろ街も店も照明から他の街と違う。銀座は華やかできれいで明るい。銀座にいるだけで人も本当に輝いてみえる。

だらだらと輝かない。洗練された一流の客たちは明日にそなえて12時にはサッと帰る。一流の仕事をしている人が多い。サッと遊んでサッと帰る。

高級クラブには学割という言葉がある。自腹なら学割がきいて毎回2万円程度で飲める。ところが会社の経費で飲むと、2人で10万円はとられる。

面白いクラブやバーは紹介制の店が多いから、知り合いに連れて行ってもらい、きれいに飲んで、そこからさらに遊び場を紹介される。

おでんの小倉は普通に飲んでお腹一杯食べて1人1万円しない程度、四季のおでんも同じぐらいで、お多幸はもっと安い。銀座の飲み屋はどこでも他の街とは違う空気が味わえる。(山田)

 

 

| chat-miaou | 17:51 |
なぜ銀座で飲むのか?

 

 

銀座は高い。高いのににぎわっている。

家賃が高いので、にぎわっていない店はすぐに潰れる。いい店ばかりが残っている。

たまに銀座へ行く。自分が情けなくなって行く。世間に通用せず、大金を稼げず、何も才能がない自分に嫌気がさして銀座へ飲みに出掛ける。せっかく生まれてきたのだからせめてそういう世界をのぞいてみたい。

銀座には世間に通用し、大金を稼ぎ、普通より才能のある人が多い。年収300万円の常連客は私しかいない。

女性の働く飲み屋は実は他の街とかわらない。座って35000円の店の女の子も他の街のキャバクラとまったく同じで、話が合わず、面白くない。面白くないのは私が歳をとったおじさんであるからで、20代の若者は最高に面白いのかもしれない。私は20代の時、楽しくてたまらなかった。

酒の種類、内装、備品、客は他の街と違う。100円ショップで買ってきたものはどこにも見当たらず、だらだらと朝まで飲んでいるような人やクダを巻いている人はいない。靴を脱いで足をもんでいるような人、靴をぬいで椅子にあぐらをかいている人、おしぼりで鼻の穴をふく人もいない。12時にサッと帰る人が多い。

私は新富寿しに行く。新富寿しに緊張しに行く。

新富寿しは予約もいらず、午後2時ごろに行くと長いカウンターに客は私一人しかいない。ご主人と11で向かい合い、緊張する。

私は鮨に詳しくない。場慣れもしていない。

「握りのお任せとビールをお願いします」

それだけ言って、後は握られた鮨を黙々と手づかみで食い、ビールがなくなったら冷酒にかえ、握りが終わったら1万円程度払って帰る。時間は40分程度。

店を出るまで緊張は続き、足取りもぎこちない。自動ドアを出ると緊張感から解放されて気持ちいい。しばらく銀座で鮨を食い終わった達成感にひたる。他の街では味わえない、名店だから味わえるあの緊張感が嬉しい。

銀座だってどこの店でも新しい客を歓迎する。会員制や紹介制のような店に行きたい人は、その店の近くの誰でも入れる普通のバーに通い店の人と仲良くなり、紹介してもらえばいい。京都の祇園も同じで、どう頑張っても入れない店は実はこの世に数軒しか存在しない。ただし、ケチはどこでも嫌がられる。

銀座には汚い恰好の人がいない。

銀座で飲んでいる遊びの先輩から誘いがあると一度家に帰って着替えてから出掛ける。きれいな恰好をしないと落ち着いて飲めない。どうしても家に帰れない時は新しい白いTシャツをコンビニで買ってシャツだけでも着替える。古ぼけて垢のついたシャツを着ている人は銀座にいない。

普段は首周りに垢の染み込んだシャツをきて、近所の立ち飲み屋で飲んでいる。普段着は毛玉だらけなので、銀座用に新品のシャツや帽子を用意してある。

正体を隠して銀座で飲む。せめて雰囲気だけでも味わいたい。(山田)

 

 

| chat-miaou | 10:50 |
会員制バー

 

23歳の時、京都に行ってみたいバーがあった。作家のエッセイによく出てくる店で、有名人が通う店として知られていた。

琵琶湖競輪に合わせて34日で旅行し、昼は琵琶湖競輪場、夜は祇園で飲んだ。

2日目の夜、そのバーを訪ねると、入り口で予約制だといわれて断られた。

電話案内で電話番号を調べ、電話すると、予約日を聞かれ、名前を聞かれた。

名簿に名前がないという。

会員ではない、というと紹介制だといわれた。

近くのせんべい屋さんでせんべいを多めに買い、紹介してもらえないか聞くと紹介してくれた。

カウンターの一番はじの席でマスターがやさしく出迎えてくれたが、マスターは汚らしいかっこうの私をどう扱っていいのか困っていた。

一流の店で、一流の大人の男たちが女性と酒を飲んでいた。

私は明らかに場違いで、店に迷惑を掛けているのがよくわかった。

落ち着いた大人が集まるバーでリュックをしょっているなんて私一人で、きれいな女性に「リュックしょってどこ行ってきたの?」と声をかけられた。

とても目立ち、恥ずかしくて酒なんて飲んでいられない。ウイスキーの水割りを急いで数杯飲んで、マスターにお礼をいって逃げるように店を出た。

すぐ近くの、前の晩にも行った焼き鳥屋でウーロンハイを飲むと気分が落ち着いた。

今日の出来事を焼き鳥屋のマスターに興奮しながら語った。

「あそこ、ワシも会員やで。何でワシに頼まへんの?」

会員制は敷居が高くて緊張する。無理矢理に行くところではない。無理に行っても居場所がない。酒を飲み続けていれば、そのうち自然に会員制の店に出会うようになっている。店もそういう出会いと穏やかな雰囲気を大事にするために会員制にしている。会員制でなくても、酒を飲み続けていれば誰でも自然にいい店に辿り着く。

京都最後の夜も、焼き鳥でその日の競輪の負けっぷりをマスターに語りながらウーロンハイを飲んだ。(山田)

 

 

| chat-miaou | 01:01 |
美人が集まる店

 

昔、池袋に美人が集まるスナックがあった。

カウンター席に座るとたいがい2人か3人、20代の美人の客がいて、私と普通に話してくれるので週に5日通った。

ママの親戚の美人がアルバイトをしていて、その子はとても性格が明るく、友達が多い。その子の友達もその店でアルバイトをしているのでその子たちの立教大学時代のサークルの友達が毎晩のように店に遊びにくるのだった。

奇跡のように才能が集合する現象が突然起こる。80年代のプロレスはスター選手ばかりだったし、70年代のプロ野球は全球団のスタメン選手が有名人だった。80年代までの文壇は常に人気作家がたくさんいて本や週刊誌が売れまくった。今もどこかで何かの才能が一方向に向かって集合をはじめていて、そのうちブームが起きる。

よくいく立ち飲み屋でまた美しい女子大生がアルバイトをはじめた。

ここの店で働く女性は普通でなくかわいい。普通にかわいいのではなく、しとやかで控えめで、それでいて愛想がよく明るい。子供の時、同じクラスになったら絶対好きになる。

うまい人気の立ち飲み屋でいつも人手が足りないのだが、なぜ、このような美しい女性ばかりが集まってくるのだろうか。ここ10年で私はこの店の3人の女性に密かに恋心を抱いた。彼女たちが就職や引っ越しのために店を辞めるとかなり悲しかった。

店には常に「アルバイト募集中」の貼り紙があるが、これをみて応募しているのではない。

客に若い女性はいないし、女子高生なんているわけない。

そしてついに謎が解けた。

モツ焼きを一人で買いにきた女の子がいた。ひかえめな笑顔で物腰がかわいらしい。健康そうでかなりの美人だ。モツが焼けるまでおとなしくじっと外をみている。

「いつもありがとうね、モツ焼きおいしいよね」

マスターが女の子に話し掛けるとモツ美人が恥ずかしそうに赤い顔をしてニコッと笑い、私に4度目の恋心が芽生えた。

「学生さん?」「はい」「どこの大学?」「早稲田です」「優秀なんだね。勉強大変だけど、暇な時、うちでアルバイトすれば? なんちゃって、即採用するから、へへへへ」「本当ですか! 今ちょうどアルバイト探しているところなんです。もしかして、後で電話しても大丈夫ですか?」「うん、いつでもいいよ、待ってる」

交渉成立、私は興奮をおさえきれず胸に十字を切りホッピーをゴクゴクと飲み込んだ。またこの店にくる楽しみが増えた。

あなたはモツ焼きを買いにいったことがありますか?

若い女性の100人に聞けば、YES11NO89人といったところだろうか。

石焼きイモの車を走って追いかけている女性がみな美しいのは以前から気付いていた。みなまっすぐな目をしている。そして、モツ好きは美人で性格がよいということがわかった。肉食なのにみんなキリンのようなやさしい笑顔をする。(山田)

 

 

| chat-miaou | 02:01 |
立ち飲み屋とスナック

 

飲食業をはじめる人は多い。私も何もできない人間なので、何度か安易に考えたことがあったが、人付き合いが苦手なので、やはりやれない。

綺麗な女の人はスナックなんてやらないで立ち飲み屋をやった方が儲かるような気がする。綺麗な人がスナックをはじめると男客が集まってきて、一番最初は儲かるが、そのうちカウンター席では男客たちの嫉妬がうずまき、結局、最も大切な、一番金をつかってくれる客が毎晩カウンター席に陣取ることになり、大繁盛の店になることはない。男客たちからの嫉妬と嫌がらせに気苦労も多く、しかもそれほど儲からない。美しくて人気があるがために儲からない。そして、年を取るとフェロモンが出なくなり、客は来ない。

昨日行った立ち飲み屋は大繁盛していた。普通の一生懸命働くおじさんとアルバイトの女の子2人で20人の客に対応していた。

焼き鳥と煮込みと、乾きものと小皿料理で、どれも200円か300円で、飲み物は400円が多い。500円以上のメニューはない。品物と引き換えで現金を手渡しでやり取りし、3人の従業員はエプロンの前ポケットでたくさんの小銭をジャラジャラいわせて景気がいい。あれほど繁盛している店は久しぶりにみた。前回行った時は30人ぐらい客がいて、満員で入れなかった。入れかわり、ずっと客が入ってくる。ずっと「いらっしゃいませー!」という声が聞こえる。きっと儲かって仕方がないから働くのが楽しくて仕方がない。だから定休日がない。

特別にうまいものがあるわけではないが、普通に全部うまい。きざんだ長ねぎと味噌のネギミソ100円、ざく切りキャベツと味噌で200円、柿の種100円、らっきょう200円、枝豆150円、その辺のスーパーで買ってきたものが多い。冷凍食品やレトルト食品も多く、電子レンジもフル回転で「ただいま、レンジが込み合っております」という断りも好感がもてる。

揚げ物まであり、春巻200円。炒めものまであり、もやし炒め200円。壁に書かれたメニューを読んでいるだけで鼻息が荒くなる。

昨夜の私のメニューは、レモンサワー300円、緑茶ハイ300円、ウーロンハイ300円、生ビール400円。煮込みの小を豆腐のみで300円、がんもどきの煮物200円で合計1800円だった。1時間以上楽しんだ。

この店はいつもこんでいるが、周りの店はいつもすいている。常連客は従業員と仲良く言葉をかわしているが、私のように不愛想な客は顔見知りになっても放っておいてくれるから居心地がいい。いつも客の数をカウントしていると、私がいる1時間だけで20人はいる。1日の客は100人を超えている。これはすごい売り上げになると思われる。店長は質素だが、家は豪邸かもしれない。周囲の居酒屋やスナックには客が一人もこない日があるというのに、この立ち飲み屋には台風でも客がくるから台風でも休まない。私も大雨の中、傘をさして出掛けてしまう。だって、安くてうまくて居心地がいいのだから行きたくなってしまう。ひどく雨が降っているから今日は行けないな、と思うとさらにがんばって行きたくなる。

スナックで1万円の金持ち客2人なら売り上げ2万円だが、立ち飲み屋で1800円の貧乏客100人で18万円になる。

他の店同様、気前のいい客が従業員たちに1杯おごっているが、立ち飲み屋の3人は忙しくて酒なんて飲んでいられないから店の横にあるジュースの自動販売機で缶コーヒーやお茶をおごってもらっている。これも安上がりで素晴らしい。女の子のアルバイトは高校生が多く、笑顔が清々しい。いいことばかりで、当分は立ち飲み屋の時代が続く。(山田)

 

| chat-miaou | 01:01 |