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いちいち話し掛けてくるおやじ

 



とてもうまい焼き鳥屋があるのだが、いちいち話し掛けてくるおやじがいるからもういかない。

私はいつもそのおやじに話し掛けられないように心構えしているので話し掛けられることはほとんどないのだが、いつ話し掛けられるかビクビクしながらひっそり飲むのに疲れ果てた。

「花見行った?」「最近よくみるね?」「うまい?」「スマホって便利?」「降って来た?」「雨止んだ?」「明日も仕事?」「休み?」「そんな帽子どこで売ってんの?」「いい飲みっぷりだねー」

いちいちうるさい。脳にストッパーがなく、何も考えずにずっとしゃべっている。

話し掛けられた方は答えない訳にはいかない。そして終わりがない話がはじまる。

店のおじさんとおやじが「景気よくなんないねえ」「こんな町じゃ商売なんてできねえ」と話した時は思わず「お前のせいだ!」と殴りかかりそうになったが、拳を握って我慢した。その焼き鳥屋は鳥を一匹一匹丁寧にさばき、そして安くて本当にうまいからいちいち話し掛けてくるおやじさえいなければリピーターが続出し、繁盛する隠れた名店のはずだ。

おやじは爪楊枝をくわえ、「チッチッ」いいながらしゃべり続け、常に音を出し本当に迷惑だ。焼き鳥を食い終わったら、とっとと帰って欲しい。

飲みにきているのではない。話し掛けにきている。
いつも私は黙っておやじの話を聞く形となり、全ての話がいちいち果てしなくつまらないのでメシがまずくなる。お陰で何の興味もないおやじの素性に詳しくなってきた。

66歳、無職。元時計メーカー社員。孫が中学1年でサッカーをやっている。15年前に家を建て替え、今は奥さんと二人暮らしで、奥さんは合唱団に所属している。火曜と金曜は奥さんが合唱団の仲間と出掛け、ごはんをつくってくれないからいつも天竜飯店でビールと餃子とチャーハンを頼む。エビチャーハンはチャーハンより300円高く、この間試しに頼んでみたがチャーハンと全くかわらない。小さいエビが何匹か入っていて、エビはそれほど好きではないからもう頼まないと思う。阪神ファンで毎日焼き鳥屋の帰りにラーメンを食ってから帰る。とんこつが苦手で普通の醤油ラーメンが好きで、帰り道にあるラーメン屋は愛想がないからたまにしか行かない。今のところ肝臓以外に健康診断にひっかかかることはないが酒をやめるつもりはない。携帯は面倒くさいからもたない。リンスはしたことがない。先週秋田に行ってきた。朝はパン。昔のプラスチックはもっと丈夫だった。

他にもたくさん彼のことを知っている。名前も住所も知っているが、本当は何もかも知りたくない。

他に知りたいことがたくさんあるのに、知りたくもないおやじのことをかなり詳しくなってしまい、本当に不愉快だ。今では自宅で彼のことを考えることがある。

ホッピーに酔いながら、(おやじは俺よりも20歳以上年上なのだからもうすぐ死ぬ。毎日飲んでいるからそろそろ体を壊して死ぬ。そうしたらこの店は居心地がよくなる。それまでの辛抱じゃないか)と心を落ち着かせて希望を見い出していると、おやじが、

「俺、この店に毎日通って30年以上経つんだなあ」

というので、何もかもあきらめた。(山田)

| chat-miaou | 07:59 |
話し掛けられませんように…

 
 

立ち食いそば屋でかけそばを食べていたら、頭のおかしいおじさんが「俺、カレー」と言った。おじさんはカレーを食べているので店に注文しているのではない。客は私とおじさんしかいないので、どうやら隣の私に話し掛けているらしい。「俺はカレー食べてるんだけど、そっちは?」というニュアンスだが、そんなの関係ない。ひょっとしたら「お前はかけそばだろ、俺はカレーだ」と挑発しているのかもしれない。いずれにしても迷惑だ。

どうやら話し掛けられやすいタイプらしい。

どこの焼き鳥屋にも話し掛けてくるおやじが一人いる。カウンター席の真ん中に座り、他の客がどこに座ろうと話し掛けることができるようにしている。1店につき1人。話し掛けたい者同士でずっと話し合っていればいいものを、彼らはすべての人と話したく、自分から話し掛けなければ気が済まないので1店につき1人縄張りができる。店の雰囲気を自分がよくしていると大きな間違った使命感を持つ。

気に入っている焼き鳥屋があり、本当は毎日行きたいのだが、この店にもいちいち話し掛けてくるおやじがいるので顔を覚えられない程度に通っている。気に入った帽子をかぶって行くと「そんな帽子どこに売ってんの?」と話し掛けられたから、その店に行く時は地味な黒い帽子にしている。できるだけ目立たない服装に着替えてからひっそりと飲みに行く。

話し掛けられたくない人は多く、話し掛けてくるおやじから少しでも離れたカウンターの両はじはいつも先客で埋まっている。客たちは、話し掛けられるリスクをしょってうまい焼き鳥を食べに来る。

早い時間にはじの席を確保することができたので、できるだけ話し掛けられないような目立たないものを注文してひっそり飲んだ。話し掛けてくるおやじは開店直後にやってきて、毎日3時間いて、一番いい時間を台無しにしてくれ、本当に迷惑だ。

あまりのうまさに牛の串焼きを3本も注文してしまったら、

「ここの牛串はうまいからな」

とおやじが言ったが、独り言と解釈し、完全無視した。

おやじに話し掛ける隙を与えず、無事、しめのラーメンまで辿り着き、汁まで残さず食べ終わった時、気が緩んで「ふー」とため息をもらしてしまうと、すかさずおやじが、

「うまかった?」

と話し掛けてきた。(山田)
 

| chat-miaou | 01:01 |
話し掛けないでやってください
 
 

父と20年ぐらい話したことがなかった。声が大きく恐い人で、すぐに怒るので私は父を避けて生きてきた。親戚の結婚式などでたまに会うことはあったが、目を合わすまではいかなかった。お金の話以外で私から父に連絡をしたことはこれまで1度もなく、父に会いたいと思ったことは生まれてから1度もない。

父は私のことを「あいつは少しおかしいんじゃないか?」と早いうちから気づいていた。新聞記者だった父が取材で使うカセットテープレコーダーのネジを全部外してしまい、「どうしてこんなことをするんだ。仕事に行けないじゃないか」と怒られたが、私は子供の頃からネジをみると外さないわけにいかなかった。父はいつも酔っ払っている私を嫌な顔でみて、母に病院に連れて行くように言った。

何年も会わなかった時、父から、「顔をみせてくれ」と手紙がきたが返事は書かなかった。

父の家が津波にのまれ、父は一気に弱った。1か月過ごした避難所から引き上げてきた父は弱々しく震え、小さな地震にも怯えた。あの時から小さな声にかわった。

土砂の中から出てきた父のパスポートの緊急連絡先に私の名前と携帯番号が書いてあるのをみた時、私は自分の人間の小ささを呪った。

大地震以来、父に毎日会うようになったが話はしない。今さら話すことがない。何を話していいのかわからない。ただ父の隣で10分ほど新聞を読む。父はたまに私の顔を見て「やっぱりこいつは変だ。いったい何を考えているんだ。俺のカセットテープレコーダーを壊しやがって」という顔をして目をふせる。私は父の心の声を読みながらも、黙って父の元を去る。

私が父に話をするのはお金のこと、父が私に話すのは入院スケジュールぐらいで、私ほどかわいくない息子はいない。

このままでは近い将来父が死んでゆく時に後悔することがわかっている。何か息子らしいことをしなければと焦り、

「早くよくなってね」

としぼりだすようにして無理して言ってみると、「酒飲んでんのか?」と嫌な顔をされた。やはり無理して話さない方がいい。

私がおかしいのは、ひょっとしたら父に似たのかもしれない。父と母はずっと別居していたし、父は自分の子供たちに向かって「頼むから出てってくれ」と本気で頼み、孫たちにも「頼むから帰ってくれ」と頼んだ。

若い頃、父と暮らしていた頃、偶然に都内の駅のホームで父と目が合い、私も父も同時に目をそらした。私は父を避けるために入ってきた電車の一番後ろに移動してつり革につかまり窓をみると隣に父が立っていて窓越しにまたお互いに目をそらし、私は他の車両に移動した。

念のため次の駅で電車を降り、次の電車に乗って座席に座ると隣に父が座っていた。この間、父と私は一言も話していない。同じ遺伝子に操られ、私が父を避けるのとそっくり同じようにして、父もまた私を避けたので、どうしても同じ場所に辿り着いてしまう。

突然私の手袋を「返せ。人のものを勝手に持っていくな」と怒り出したこともあった。不思議に思うと、父が私と全く同じ青い手袋を持っていて、池袋の西武デパートの同じバーゲンで同じ手袋を選んで買ってきていた。

毎日会っているのにここ1か月以上お互い一言も言葉を発していない。なかなかできることじゃない。(山田)

 

| chat-miaou | 14:56 |
話し掛けてこない店

 



話し掛けてこない店をまたみつけた。

すいていそうな中華料理屋に入ると、電気が消えていて暗い。はじのテーブル席に座ってもカウンターにうつぶせて寝ている店の夫婦は気づかない。

「すいません、いいですか?」

と声を掛けるとやっと起き、電気をつけ、水を運んできた。

メニューをみるとホッピーがあるので期待した。多くは望まない。味なんてこだわらない。すいている店で、誰にも話し掛けられずにホッピーが飲めればそれでいい。

肉野菜炒めと春巻きをつまみに1時間ほど飲んだが、他に客が入ってくる様子はなかったのでしばらく通ってみることにした。

翌日もこの店でホッピーを飲んだ。

ずっと一人で黙って飲めるのだが、居心地がいいとはいえない。

テーブルがベタベタしていてもかまわない。つまみがうまくなくてもかまわない。一人でボーッとさせてもらえるだけでありがたい、そう思って数日通ったが、もう耐えられない。通えば通うほど不愉快になっていく。

店に金魚のエサのにおいが充満している。目やにのついた猫が歩き回っている。私は何を食べてもおいしいと感じる人間なのだが、揚げ物を頼んでも、炒め物を頼んでも、何を食べてもまずい。カキフライもコロッケも冷凍食品で全然かまわないが、いつも黒くこげていて苦い。普通のソースでいいのに、何か余計なことをして変な味のするすっぱいソースに変えてしまっている。どうせ売れないと思ってこまめにに仕入れないから炒め物の野菜がしなびている。野菜を細かく刻み過ぎている。中華料理屋なのに勢いある火力も鍋の音も聞こえてこない。ホッピーの中に入っている氷が小さく、どんどん水っぽくなっていき、氷に冷凍庫の変なにおいがついている。

私のような人間が通う店はこんなところなのだろう、と我慢していたが、いくらなんでもひど過ぎる。これでは生き地獄だ。

あんなまずい料理をつくれる人はなかなかいない。塩とこしょうだけの方がずっとうまい。腕だけではない。腕と環境であの独特の味を出すことができる。食材も、味付けも、店の雰囲気も、すべて間違っている。しかも安くない。メニューに「食材にこだわっています」とまでうたっている。

職業選択を間違っているとしか思えない。どうして中華料理屋などはじめてしまったのだろう。人に料理をほめられたことはあるのだろうか。

繁盛しないには訳がある。

「いつもありがとうございます」といってサービスしてくれたバナナが真っ黒くいたんでいるのをみて、何もかもあきらめた。(山田)
 

| chat-miaou | 15:02 |
生涯最高の店

 


大切な店がなくなってしまった。

しばらく禁酒して、体調を整えてから禁酒明けの冷たいホッピーを楽しみにして飲みに行くと、店が消えていて駐車場に変わっていた。別れはいつも突然やってくる。

他の店に行こうとしたが、入りたい店がない。行きたい店がない。あの店でないと嫌だ。

それから毎日、入りたい店がない。ひどい喪失感で、絶望している。
生涯で間違いなく一番通った理想の店で、
1000回は通ったが、店の人に1回しか話し掛けられたことがない。店の人の名前も年齢もいっさい知らない。

客が私一人の時、シャブ中の客が入ってきて長時間トイレにこもり、覚醒剤を打ってからカウンターで長時間なりうなっている。マスターが注意すると発狂し、「殺す!」「沈める!」「ババア!」「ジジイ!」と大声でわめき、ジジイが警察に電話するとシャブ中は金を払わず走って逃げていった。

興奮さめやらない女将さんが、腕に注射を打つポーズをとり、「やってんな?」と私に話し掛けた。

こちらから話し掛けたことも1度だけある。客が私一人の時、急にどしゃぶりの雨が降ってきて、いつまでも止まないので傘を貸してもらえないか頼むと、50本ぐらい山のようにゴミ箱につっこまれた忘れ物の傘の中から、一番汚くて骨がバキバキに折れて黒く変色してビニールが腐って溶けて癒着してしまっている透明ビニール傘を選び出し、「返さないでいいですから」といってくれた。
私以外にも常連客はいたが、客と話したこともない。わかっている客ばかりで、私に話し掛けてくる人などいなかった。誰とも目を合わせないように常に気をつけていたので、話し掛けられたとしても簡単にスルーできた。

通いはじめて100日目ぐらいの時、その店の素晴らしさに気づき、大切にした。できるだけ毎日通い、高いものを頼むようにした。いつも4人掛けのテーブル席を広々と一人で独占していたので、少し客が混んできたらすぐに店を後にした。

ホッピーもワインも焼き鳥も焼き魚も刺身もあり、400円以上のメニューはない。毎日夕方になってあの店に行くのが楽しみだった。2時間いても3時間いても誰も話し掛けてこない。用ができて10分で黙って帰っても何とも思わない。先払いだから声を出すのは注文する時だけでいい。「ごちそうさまでした」もいわずに店を出る。あんな店にはもう出会えない。

つくりが似ている店に片っ端から入ってみるが期待できない。

すいている中華料理屋のテーブル席でマーボー豆腐に七味をふると、

「もっと辛い方がよかったですか?」

と話し掛けてきた。

一人で黙って飲んでいると、

「この辺の方ですか?」

とまた話し掛けてきた。どこも話し掛けるのが仕事の一つだと決めている。

やっと話し掛けてこない立ち飲み屋をみつけた。

かわいらしい女の子がアルバイトをしていて、その子をみているだけで楽しい。先払いだから黙って帰ることもできる。

注文の時以外はその子と目を合わさないようにしていたが、看板娘なのでアルバイトを終える度に、「お先に失礼します。ごゆっくりどうぞ」と客に頭を下げて回ってしまう。

そんなことをされたらこちらも「おつかれさまでした」というしかない。そんなことが続いてしまえば、交流がはじまってしまう。私は注文以外一言も声を出さなくていい店で酒を飲みたい。

誰からも相手にされない店で黙って飲んでいると、たまに、脳の動きが止まる。まばたきも止まり、一点をみつめたまま、ボーッとして気持ちいい。真夜中に突然目が覚めてシーンとしている暗闇に似ている。いつまでもそのままでいたい。あの状態に入ると「あ、入った」ととても嬉しい。居心地のいい酒場で、一人でいないとあの時間は訪れない。

最高の店をやめてしまった夫婦は老後を楽しんでいる。大袈裟でなく、あの人たちのお陰で私は生き抜いてこられた。今、どうしていいかわからない。行きたい店がない。行く店もない。自転車で、二人仲良く出掛ける姿を何度か見掛けた。私と目が合うこともあるが、決して挨拶はしない。(山田)

 

| chat-miaou | 12:18 |
ネギ男


数年ぶりに店を訪ねてみるとなくなっていたなんてことがよくある。それほど飲み屋は儲からない。数年前まで、新橋の駅前ビルあたりには1000円で飲ませてくれるスナックや小料理屋がいくつかあった。1000円では安すぎるので、私はいつも2000円置いていった。

突然店を閉められると罪悪感が残る。もし、経営に困っていたのだったら正直に事情を記した募金箱でも置いておいてもらえたら1000円ぐらい入れたと思う。酔った勢いで1万円入れる人もいると思う。いい店は客に心配される。本気で感謝される。なくなっては本当に困る店がある。つぶれてもらっては困る。もし、借金を残して店をやめていったのだとしたら切ない。

1990年代に遊びの先輩に聞いた話がある。

六本木の業界バーがつぶれそうになった。それを聞いた有名カメラマンが毎晩大勢の女の子を引き連れて飲みに来て、経営難を救った。有名カメラマン効果で、それまでこなかった有名人も通い出し、以降、店主が亡くなり閉店するまでその店は有名人が集まる店としてずっと1番だった。そしてカメラマンはますます誰からも尊敬された。お金があったらそんな飲み方をしてみたい。

今も大好きな店がある。メニューが私の好みと合っていて、玉ネギ焼き、エシャレット、オニオンスライス、ネギみそ、ラッキョウ、をつまみにホッピーやレモンサワーや赤ワインを飲んでいる。

夫婦二人でやっているその店は臨時休業が多い。店に行ってやっていないとがっかりする。

やるかやらないかわからないのでしばらく本屋で時間を潰して1時間後にきてみたらやっていたりするので帰るに帰れない。店主に電話番号を聞くと、携帯番号を教えてくれ、以降開いていない時に電話をし「今日はお休みですか?」と尋ねると「今、開けますよ」と女将さんがやさしくいってくれる。それ以外、店の人と個人的に話をしたことは1度もなく、私はそんな関係を気に入っている。

つぶれてもらっては困る店なので私はできるだけ通い、できるだけ金をつかうようにしている。夫婦に好かれるように心掛け、込んでいる時はすぐに帰り、できるだけ綺麗に飲むようにしている。

先日も開いていなかったので店の前から電話した。

呼び出し音が5回、10回と鳴り、プチッと電話に出ると、

「うるさいなあ! またあの人だよ。ほら、あのいつもネギばっかり食ってる人、どうせまた『早く開けろ』っていうんだろ? はい、もしもし」

私は絶句し、「きょ…今日は…お…お休みですか?」と尋ねると、女将さんはやさしく笑って店を開けてくれたが、私は彼女の顔をみることができなかった。女将さんにそんな風に思われているなんて、そんなところも好きだった。

さすがに以降、電話するのはやめ、開いてなかったらとっとと他の店に行っている。枝豆や山菜おろしなど、ネギ以外も積極的に頼むようにしている。(山田)

 

| editor | 02:01 |
うるさいおやじ

 

 

行きつけの店にいちいち話し掛けてくるおやじがいるので、残念だがもう行くのをやめようと思う。おやじはいちいちテレビに反応し、二分に一度くらい、「うまそうだな?」とか「高ぇな?」とか「へー、今度やってみよう」とか、まるで友達のようにこっちを振り向いて馴れ馴れしく話し掛けてきて本当に迷惑だ。

こんなおやじのために大切な店を失うのは辛いのでアイポッドを大音量にしておやじの声をシャットアウトして通っているのだがもう限界だ。大音量で音楽を聴いていると落ち着いて飲めない。

昨日もそのおやじが隣に座った。もちろん目を合わせないようにして音楽を聴いていたのだが、昨日はいつもと様子が違った。私と逆隣に座った若いもう一人のおやじがうるさいおやじと楽しげに話をはじめた。

アイポッドの音量を下げ、話に耳を傾けると、「酒飲みながらメールをやる奴はバカだ」とか「テレビを一人でみたって面白くないじゃん?」とか「酒場での交流ができない奴はどうしようもない」などと語り合っている。うるさいおやじは隣の私に向けていっているみたいだった。

酔うほどに二人のおやじは握手をしたり肩を叩き合ったり、どんどん親友になっていった。もう一軒二人で行くことになったが、よく話を聞いてみると二人とももう金を持っておらず次回ということにした。

最後は二人で電話番号を交換し、今度必ず飲みに行くことにしたが、頼むから他の店に行って欲しい。

ことごとく共感できずムカムカしっぱなしだったが、気づくと二時間も彼らの話を聞いてしまい、頭にきたからガールズバーの圭子さん(34歳、2児の母)の顔をみに行ってから家に帰った。(山田)

 

| editor | 01:01 |
最高の店
 
 

今の店に10年以上通っている。

その間、経営者が二回かわっているが、それぞれ安くて雰囲気がいい。

私は最初の焼鳥屋のマスターに好感をもっていた。

いつものカウンター席に座って足を組んでいると、マスターが「もう少し椅子を引いてもらえますか?」と強い口調でいった。

マスターのいう通り椅子を引いたがそうすると足を組むことができない。
「狭いなあ、足を組んで飲みたいんだよなあ」と文句をいってしまうと、マスターは赤い顔をして無言になった。

数日後飲みに行き、いつもの席に座ろうとすると、椅子が床に五寸釘で打ち付けてあり、私はマスターのファンになった。
五本ほどの五寸釘で頑丈に打ち付けられ、身動きのとれない椅子が定席になった。何度も座っているうちに釘は抜けてしまうのだが、しばらくするといつもマスターが補強してくれた。

ある日テレビをみていて、あまりにもつまらないので「チャンネルかえていいですか? クイズ番組嫌いなんですよ」と文句をいってしまうと、マスターは「いいですよ」とつぶやいて赤い顔をした。

数日後飲みに行くと、五寸釘のカウンター席にブラウン管テレビとリモコンがおいてあった。これでは酒やつまみを置くスペースがないし、画面が近すぎる。危険なものを感じたので店に通うのをやめた。

しばらくして店の前を通ると店の名前がかわっていて、入ってみると経営者がかわりフィリピン人の女の子がたくさん働いていた。

前のマスターが客としてきていて、私ははじめてマスターとゆっくり話をした。マスターは赤い顔でロックの話をし、中ジョッキに瓶ビールを何度も注ぎ足し、注ぐ度にビールがジョッキからあふれてカウンターがびしょびしょだった。

この店はそう長く続かず、今の店主になってもう10年近い。

今の店も最初はすいていたのだが、常連客がどんどん増え、大繁盛している。いい席をとるためには開店時間の4時過ぎに入らなければならない。

安くて、無口で、とても居心地がいい。注文以外声を出す必要がなく、前金制なので好きな時にいつでも帰れる。何も頼まなくても嫌な顔一つみせないし、話しかけてくる客もいない。理想の店といっていい。

おじさんとおばさん二人きりでやっているのに多い時は20人近くの客が押し寄せる。そんな時はもちろん注文なんてできないが文句をいう客はいない。

店の人ともお客さんとも一言も話したことはないが、私は最高の常連客たちに紛れ込んで「孤独じゃないんだ!」と一人で興奮している。

店が込みはじめると私は店を出る。少しでも儲かってほしい。少しでも長く店が続いてほしい。なくなってしまっては本当に困る。

家に帰って一人でメシを炊いていると「やっぱり孤独だな」と落ち着いた気分になる。(山田)
 

| editor | 01:49 |
沈黙の一人酒

 

よく行く立ち飲み屋があり、年間50日は行く。

もう15年以上通っているから、750回は行っている。

まだここのマスターと話をしたことがない。ママとも話したことがない。アルバイトの店員とも客とも話したことがない。

たぶん、周りから気持ち悪い人だ、と思われている。

私は沈黙の酒が好きだ。

この店には1軒目に行く。もしマスターと話をし、次の店に行ったらまた同じ話を最初からすることになる。そういうのが面倒くさい。

人と話をするために行く店もある。どこの店も酒を飲むだけでなく話をするのが目的である場合が多いから話ができる店ばかりだ。

沈黙の酒を飲める店はなかなかみつからない。数回通えばすぐに話し掛けられ、言葉を交わす仲になってしまう。行きつけのスナックやカウンターバーでは沈黙の酒は飲めない。いきなり沈黙したら怒っているのか心配されてしまう。

沈黙の酒から学ぶことは多い。酒を飲んでいるうちに勇気がわき、頭の中の考えがまとまってくる、怒りが収まり、悲しみが癒える。自分以外の酔っ払った人たちの話に耳を傾け、冷静に行動を観察する。とても貴重な時間となる。

15年間沈黙を守るのはなかなか難しい。その辺、マスターや常連客はわかっているようで、もう私に話し掛けたり挨拶してくるような人は誰もいない。

「いらっしゃい」「ありがとうございました」だけで十分で、私は軽く頭を下げるだけでそれらの言葉にも反応しない。注文以外、声を出すことはない。

おいしくて居心地がよくて、楽しくおしゃべりしている常連客も多い中、私一人が無表情で沈黙を貫いている。

とてもいい店にはいい人が集まる。アルバイトの女の子たちがかなりかわいい。アルバイトの女の子目当てにこの店に通う人も多い。

本当は私だってかわいい女の子と話したい。友達になりたい。しかし、沈黙を優先する。

「元気? 今日の洋服よく似合ってるね」

心の底からそういってあげたいのだが、その一言で15年の沈黙が終わってしまう。

また新しい女の子がアルバイトに入った。とても美しい女子大生で、かなうことなら友達になりたい。

私が店に入ってくるのをみるとまぶしいぐらいの笑顔で「レモンサワーですか?」と聞いてくれた。

私は笑顔をつくることもなく目をそらして下をむき、

「いや、中生」

と答えた。(山田)

 

 

| chat-miaou | 01:01 |
汚いおやじ

 

偏った読書のせいで酒飲みはかっこいいもの、と思い込ん生きてきたが、読書の影響を受けない年齢になると、酒飲みはみっともないものだとよくわかる。40歳を過ぎると現実を見る目が養われる。

もう、新しい酒場を開拓するのはよそうと思う。

面白い店なんてなかなか出会えるものではない。長く、出版の仕事をしたので、たくさんの頭のいい人たちと酒を飲み、そういう人たちが集まる酒場に通いつめたので、そういう意味で面白い酒場は満喫し、行き過ぎて飽きてしまった。そういう店以上に面白い店なんて、ない。

そうすると、面白いより、おいしい、相性がいい、いい女がいる、という方向に進むしかないが、相性がいい、とか、いい女がいる、なんていうのは偶然だから、自分でみつけることはできない。

食べログで人気のおいしい店に行くが、おいしい店にも飽きた。

都内のよさそうなスナックに入ってみると、よさそうなママだった。

「一杯飲んだら?」

とすすめると、病院の検査があるから飲めない、と言うので好感が持てた。

すると、横にいた灰色の汚いおっさんが、

「私、年金生活者なもので、代わりにビールもらってもいいですか?」

と話し掛けてきた。冗談ではなく本気で言っている。目の焦点が合っていないからアル中だ。

もちろん嫌だから、

「この店、初めてなんでお近づきのしるしにすすめたんです」

と説明するのがバカらしくなった。

こんなことを説明している自分は嫌だし、しかし、かといってこんなおやじに奢るなんてもっと嫌だ。

ムカムカしながら数十分飲んで、近所のうまいラーメン屋をママに聞いて店を出た。

小さな中華食堂に入ってカウンター席に座ると、さっきのおやじも入ってきて私の隣に座った。

私がラーメンを頼むと、おやじもラーメンを頼んだ。

おやじがこの辺の面白い飲み屋の話を私にしたが、私は一緒に行かない。一緒にいるのが恥ずかしい。

私はさっさとラーメンを食って店を出たかったので、ラーメンを急いでかき込んでいると、おやじも同じように急いで食う。

先に帰ってもらうためにゆっくり食うとおやじもゆっくり食う。

私が食べ終わって立ち上がると、おやじも立ち上がって店を出た。

店のおじさんが「一緒ですか?」と聞くので「別々」と言って600円払うと「あの人の分は?」と聞かれ、「さっき別の店で会っただけで名前も知らない」

店のおじさんがおやじを追いかけたが「先に払った」と言い張り、弱そうなおじさんが悔しそうに店に戻っていった。二人は顔見知りらしい。いつもこうなのだろう。

アル中は人の金で飲み食いすることだけを考えて生きている。一緒にいるだけで不愉快になる。おやじは駅までついてきて本当に迷惑だ。こんなおやじのいるこんな街には二度と来ない。(山田)

 

 

| chat-miaou | 01:01 |