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子供がいないということ

 

40歳を過ぎると子供をあきらめる人が多い。誰もが酒を飲みながら悲しそうな顔をして子供のいないこれからの人生を語る。子供のいる人が羨ましい。

しかし、実は子供がいない人生も悪いものではない。

14歳までは子供がいない人生よりも子供のいる人生の方が楽しいに決まっている。楽しかった子供時代をもう一度経験できる。子供のかわいさをみればいくら払ってもかまわないし、どんな辛いことだって耐えられる。

病気をもった子供や障害をもった子供は大人になってもかわいいという。ずっと守ってやりたいから気合が入り、親もずっと元気でいられる。

かわいかった子供たちが14歳を過ぎたあたりからかわいいとはいえなくなる。それまではみんなかわいい顔をした子供だったのに、美人とそうでない人の区別がくっきりと表れる。

子供がいてよかった、と思える瞬間はどんどん減っていく。子供の顔をみれない日が続いても別にかまわなくなるし、子供も親といるのを気持ち悪がり、スキンシップはなくなる。成長した子供と手をつないでる親子は少しおかしい。この歳頃を過ぎると子供のいない人も子供をみても羨ましくない。

子供のかわいさは期間限定ですぐに終わってしまう。

世の中の数パーセントは必ず悪人になる。

借金癖のひどい人、ギャンブル狂、暴力をふるう人、ロリコン、ストーカーになる。自分の子供が自分や他人に迷惑をかけ続け、保証人にされ、保護者責任を問われ、人生をめちゃくちゃにされる。子供がいるとはそういうことだ。それまでのかわいさは忘れ、こんな子供は産まなければよかった、憎しみしか残らない。人に迷惑をかけるそんな子供が生まれてくる可能性は低くはない。

遺伝子が同じなのだから子は親に似る。だらしのない親を批判していた子供が大人になるといつの間にか親と同じだらしのない人生を歩きはじめている。

もし私に子供がいたら病気がちで不登校で偏差値が42でアルコール依存症で小便をもらし何度も警察に保護される。まだみぬ我が子を想像してみるといいところが一つもみつからない。一人でも生きているのが大変だというのにそんな人がもう一人いたらやっていけない。(山田)

 

 

| chat-miaou | 07:19 |
麻酔の効果

 

父は手術が終わる度におかしくなる。

ハイテンションでゲラゲラ笑っている。麻酔(ドラッグ効果)の影響で、手術が終わってもしばらく変なことばかりいう。

一歩も歩けないのに「帰る」といって看護士のいうことを聞かず振り切り、立ち上がり歩けず倒れケガをするからベッドに数時間縛られる。

前回は「チャーハン食ってくらあ」と何度もいった。東北出身なのに江戸っ子のような口調で元気に騒いでいる。父がチャーハンを食べている姿をみたことがないし、チャーハンが好物なわけもない。ハイテンションで看護士に「この辺でうまいチャーハンを食わせる店はありますか?」と聞いて無視され、立ち上がって転んで縛られた。

1日経つと平静に戻り、それまでの時間は何も覚えていない。

今回は突然「コケシ買ってきてくれよ」といい出した。

「コケシ? コケシってあの人形のコケシ?」

「ああ、世話になった女の子たちに配るんだ。安物はやめてくれよ、2000円ぐらいする花柄のきれいなコケシにしてくれよ。パッと明るい感じのな、そうだな、5つくらい買っておいてもらおうか」

完全にラリッているので無視した。いつもより麻酔の効きが激しく、尿道につけられた管を「こんなんは邪魔だ」といって無理矢理ひっぱって外して出血し、「帰る」といって立ち上がって倒れ、看護士の制止にいつまでも抵抗して縛られた。精神科医もやってきて問診を受けた。

いつもは手術の2日後には普段の元気のない父に戻るのに、4日経ってもゲラゲラ笑っている。ついに気が狂ってしまったか、と不安に思った5日目に正気に戻ってくれた。

退院して帰りのタクシーに乗った。管を外したことを話すと全然覚えていない。この数日間ずっと騒いでいたことも、縛られたことも、大部屋から個室に移されたことも覚えておらず、恥ずかしそうにしていた。

タクシーの中で無言の時間が続いた。

「そういえば、お前、コケシはどうした?」

「コ! コケシ! なんでそんなことだけ覚えてんの?」

「そりゃあ、覚えてるだろ、頼んでおいたじゃないか、花柄の明るい感じのコケシな」

ドラッグをやるミュージシァンやアーティストにはきっとこれと同じ効果がある。江戸っ子のように語るチャーハンとか、パッと明るい感じの花柄のコケシとか、普段の自分からは絶対出てこない発想が湧き上がってくる。(山田)

 

| chat-miaou | 08:23 |
介護日記

 

父の目の眼圧が上がり、また出血した。

立つこともできないので車椅子のまま乗れるタクシーを探す。

介護タクシーは個人でやっている人が多く、介護サービス料が高い。時間制のタクシーもかなり高い。

普通のタクシー会社で車椅子がそのまま乗れるタクシーをみつけ、予約すると、予約料が410円かかるだけで、乗車料金は普通のタクシーと同じでこれは安い。車椅子をトランクに積み、父を乗り降りさせるのにいつも5分はかかる。

眼科に行くと、思ったより悪く、緊急手術をすることになった。大学病院に移ってまずは緊急入院することになったので、タクシー会社に電話すると車椅子ごと乗れるタクシーに空きがない。どこのタクシー会社に電話しても空車がない。1時間以上は待つという。行きは早めに予約して病院に行き、帰りは診察の終わり時間がわからないから予約できず、タクシーがつかまらないパターンが多いという。5つの会社に電話したがつかまらないので普通タクシーに父を抱きかかえて押し込み、車椅子をトランクに積んだ。

家に診察券を取りに戻り、今まで入院していた病院に戻って退院手続きを取り、それから大学病院の眼科の外来受診を受け、入院許可された。

入院申込書に連帯保証人欄がある。父が患者で私が保証人ではダメだという。住所が違う別世帯の人でないとダメだという。思い当たる人がいない。親戚が一人もいない。

飲み仲間の顔が浮かんだが、彼らのことを詳しく知らない。行きつけの店のマスターの顔が浮かんだが、彼の名前も知らない。入院の保証人になってもらい、その後、彼らの人生に危機がやってきた時にサラ金の連帯保証人を頼まれたら断れなくなるから頼めない。

一人だけ頼める人がいる。23歳の時、友人の首吊り現場を発見し、20年以上経った今でも彼のお母さんが私に米を送ってくれる。ずいぶん悩んだが頼めるのは彼女しかいない。電話をするとすぐに引き受けてくれた。私は彼女に米を送ってこないようにいい、年賀状もいらない、私に恩を感じる必要はないと強くいい続けてきたのに、こちらから彼女に電話して連帯保証人を頼んだ。今の世の中は一人では生きていくことができない。連帯保証人制度はなんとかしてほしい。入院保証金を高くすればそれで済む。

前の病院と違って看護師さんが父に手を貸してくれない。できるだけ自分でやらせる。態度がきつい。そうしないと患者は看護師を頼り甘えるようになる。だから本当はやさしい人たちが不愛想に厳しい態度を取る。病院は介護サービス企業ではない。

車椅子の乗れるタクシーを探したのが朝の9時で大学病院の入院手続きが済んだのが夜の8時でずっと立ちっぱなしだったからクタクタに疲れていると、前の病院から電話がかかってきて荷物をすぐに引き取りにくるようにいわれた。

二年もいた病室なので荷物が多い。車をもっていないからタクシーで運ばなければならない。疲れて体が動かない。明日にしてくれるように頼むと、明日の午前中まで待ってくれた。嫌がらせをしているのではない。厳しく不愛想にして、前例をつくらないようにしなければ患者はどんどんルーズになる。いつまでも荷物を引き取らない人もいる。

結局父の手術と入院はそれから1週間かかった。大学病院を退院し、また前の病院に電話した。

受け入れてくれなかったらどうしよう。

ベッドが空いていなかったら、受け入れ先がみつかるまで父とホテル暮らしをするしかない。

不安で眠れず、朝9時を待って前の病院に電話した。

「すいません、また受け入れていただけますか?」

しばらく待ってからOKをもらい、ホッとして涙が出た。

前の病院に辿り着き、父をベッドに移すと看護師さんたちが手を振りながら父に会いに来てくれた。みな美しい、みんなやさしい、とても嬉しい、涙が出た。(山田)

 

| chat-miaou | 14:20 |
植木等とジョー・ストラマー

 

イギリスに留学中の女子学生が学校を辞め、親からの仕送りを止められた。勤めているパンクロッカーが集まるバーで同僚からのいじめに会い、店も辞めたくなった。

嫌な同僚に露骨な意地悪をされ悔しくて耐え切れず、店の裏口に出て階段に座り込んで泣いていると肩を叩かれ、振り向くとそこにジョー・ストラマーが座っていた。

「全部みてたよ、次の仕事先は俺がみつけるから心配するなよ」

ファンにやさしかったジョー・ストラマーはできるだけレコードを安くするために印税契約を拒否したという。海外から逃げてきたファンをかくまうために入籍してあげたという。だからずっと貧乏で正式な結婚もできないでいたという。本当かただの伝説かわからないが、ジョー・ストラマーにはそんな話が無数にあり、泣きながらジョー・ストラマーへの感謝を語る人が多い。悪くいう人はこの世にいない。

日本にも同じリーゼントのミュージシャン植木等がいる。

付き人だった小松政夫は植木さんの話をする度に感極まって泣く。

小松政夫が植木等を乗せて運転していると突然いわれた。

「明日からもう来なくていい。給料もマネージャーも、全部俺が決めてきた」

驚いた小松は涙が止まらなくなってしまい運転できなくなり車を止めた。植木さんがやさしくてかっこよくて別れるのも嫌だった。

数分泣き続けている間、植木は何もいわずに待っていてくれた。

「別に急がないけど、そろそろ行くか?」

植木さんは小松がそれまで所属していたプロダクションの幹部を呼び集めた。

「小松は辞めて独立するけれど、もし、お前らが干すとか意地悪するとかいうことがあったら俺が承知しないからな」

たぶん羨ましいのだと思う。こういう人に憧れている。強い成功者が後輩を思いやって行動する姿に感動する。植木等もジョー・ストラマーも内面が顔に出ている。植木映画をみる度にジョー・ストラマーを思い出す。かっこいいだけでなくやさしい顔をしている。みればみるほど好きになる。知れば知るほど好きになる。電車に乗っていて植木等とジョー・ストラマーのことを考えているだけで涙が出てくる。誰かに二人の話をしながら涙が出てくる。二人がこの世にいないというだけで悲しくなる。(山田)

 

 

| chat-miaou | 13:48 |
介護日記

 

病院を訪ねると父の顔色がいい。ここ数年で一番顔色がよく、おだやかな顔をしている。気持ちよさそうに眠っている。病室を掃除しながら(あと10年は大丈夫だな)と思った。

(あと10年……あと10年というと今俺は47歳だから57!)

57歳なんて、あと3年でおじいさんになる。

人生は60歳からなんていうけれど、それはおじいさんが自己肯定するためにいっているだけのことで、60歳になったら全力で走ることもできない。誰だって若き日々に戻りたい。

母の介護は6年で終わった。父の介護は7年目になる。計13年も遠出することのできない生活をしている。主婦だってみんなそうだ、という考え方もあるが、大好きな子供や夫のため、自分が好きで選んだ道とは違う。介護や奴隷は自分の意志とは関係なくやらなければならないことが多く肩がこる。どうせ数十年後にはみんなこの世にはいないのだから親なんて捨てて逃げればいいが、親子感情というのはそう簡単なものではない。恩義と幼い頃にやさしくしてもらった思い出がある。性格的に親を捨てて逃げる勇気や決意や気力もない。

57歳、実際にはそこまで長くは続かないとは思うが、何もかもあきらめた。

母の介護をしている時、まだ30代だった。狭心症の母は冬の夜、血管が縮んで胸の痛みに苦しむので石油ストーブをつけっぱなしにし、何度か蒲団を燃やした。火の番をしながら、もう就職なんてできないな、と考えていたが、母が死んで数か月後に、新雑誌創刊に誘われた。周囲から「よくそんないいところに就職できたね。やっぱり神様はみているんだなあ」と羨ましがられた。36歳でまた熱狂の青春時代が訪れた。

また編集者に戻れて嬉しくて楽しくて、会社に行きたくて朝が待ち遠しく始発で出社した。取材して記事をつくって本を出版できるなんて、遊んでいるのと全くかわらない。しかも取材費も給料ももらえる。人の嫌がる仕事を上司から押し付けられると燃えてきた。会社の電話が鳴ったら全部出た。元旦も出社し、他の社員の年賀状を仕分けし、机の上に配って回った。取材で遠出し、毎晩夜遊びし、きれいな女の子とデートし、眠らずに出社した。「シャブやってんの?」と友人に聞かれ、15キロ以上痩せた。痩せているから体が軽く、洋服が似合うから買い物も楽しく、もっと働きたくてアルバイトもして年収が600万円を超えた。

同じ環境はいつまでも続かない。全てに必ず終わりがくる。植木等のようなハイテンションでバラ色の生活は4年で終わった。会社をクビになって3か月後に大地震が起こった。父が被災し、津波で全てを流され、また介護生活がはじまった。(山田)

 

 

| chat-miaou | 11:40 |
近所で飲む

 

込んでいる立ち飲み屋で飲んでいると、右隣のグループが私の知っている人の陰口で盛り上がっていた。死んだことは噂で聞いていたが自殺だという。最後に一緒に飲んだのは20年以上前のことなので私に知らせがくることはなかった。自殺する前には強姦で捕まったという。そんな話は知らなかった。話している人の顔をみてみると近所の人で、挨拶するほどの顔見知りではない。

近所は恐い。強姦の前科を知られたら普通はその町では生きていけない。そんな話を笑いながら、店内の全員が聞こえる大声でいつまでも語り合っている。近所の目が辛く、引っ越す金がないから自殺したのかもしれない。

近所で飲むのは控えよう。何をいわれているかわからない。もし金があったら新しい町に引っ越し、近所付き合いせず、謎の男として生きなおしたい。

私の右隣は強姦の話をしていて、左隣のカップルはベタベタといつまでも抱き合っている。おやじたちが集う立ち飲み屋で抱き合って愛をささやき合うなんて頭がおかしい。普通の人たちは家でやる。電車の中や立ち飲み屋ではやらない。数分に一度は抱き合うので、おやじたちはみんな嬉しそうな顔をして彼女たちをみている。そんなことおかまいなしに40歳ぐらいの女が35歳ぐらいにみえる男の首に手を回して見つめ合い、キスする。二人は私より先にきていたからもう一時間以上いるのに、300円のウーロンハイを一杯づつ頼んだ切りで本当に迷惑だ。何も頼まないくせに箸たてから箸を抜き取り、それぞれ自分の前に置いている。

店の人は注意しない。注意しようがない。なかなか「そういうことするのやめてください」とはいえまい。それどころか店の人に時たま話し掛けて恋人を紹介しているから常連客なのだろう。迷惑な常連客だが、店の人たちは、彼女たちの空気を読まない強引で圧倒的な態度に押し流されているのがわかる。変態といっていい。かなりの変質者だと思う。こういうカップルが別れると激情的ストーカーにかわる。誰か動画撮影してユーチューブにアップして欲しい。十分謝罪レベルの迷惑行為だと思う。

キスの音や耳元でささやく「酔っちゃった?」というささやきに耐え切れず、胃が痛くなって店を出た。

家に帰ってからも彼女たちのことが気になって仕方がない。二人で600円でまだ抱き合っているだろうか。今すぐ戻れば間に合うだろうか。

最後まで見届けてくればよかった。確かに嫌いだったはずなのに。いつの間にかすっかり彼女たちのファンになってしまっている。(山田)

 

| chat-miaou | 14:08 |
『金ではなく鉄として』

 
 

ブックオフで中坊公平の本をたくさん買い込んだ。どれも108円で、内容も似ていて、やはり『金ではなく鉄として』が一番面白い。

森永ヒ素ミルク中毒事件の弁護団長を務めた中坊は50軒の被害者家族を回った。各家で世の中の真実を見た。44歳の遅過ぎた青春がやってきた。中坊は変わった。金儲けだけの仕事ではだめだ、と気づかされた。

ミルクを飲んだ赤ちゃんたちに後遺症が残っていた。

コウジ君は訳もなく乱暴になってしまい、健康な兄弟の勉強の邪魔をしてしまう。小さいうちはお父さんが力づくで止めたが、大きくなってお父さんも止めることができなくなると、自分から精神病院に入るといった。たまに家に帰ってきても暗くなる前に一人で病院に帰っていく。みんなで晩ごはんを食べると泊まっていきたくなり、病院に戻りたくなくなり、またみんなに迷惑をかけてしまう。気持ちを察したお母さんも「泊まっていけ」とはいえなかった。

タケオ君は生涯に3つの言葉しか口にできなかった。「お母さん」「ごはん」「アホウ」の3つのうち「アホウ」は外で覚えてきた。外で遊ぶのが好きだったタケオ君が外出すると近所の子供たちに砂や水をかけられるのだが、絶対に泣かなかった。泣くと面白がられ、さらにいじめられることを知っているので泣くことは許されなかった。泣くこともできないと笑われたが、家に帰るとお母さんにすがって泣いた。タケオ君の服には「この子が迷子になったらお電話ください。お礼を差し上げます」とゼッケンが縫いつけられていた。
就職が決まったと二階から知らせに来てくれた子が、ひと月後にはクビになり、もう下へ降りてこない。

通ううちに話をしてくれるようになった手足の不自由な子が、皿に注がれたお茶を犬のようにして飲み始めた。

中坊が法廷で被害者たちについて語ると裁判官が天井を向いて涙をこらえた。裁判官という立場上、涙をみせることができない。

中坊が森永ヒ素ミルク中毒事件の弁護団長を頼まれた時「かかわりあうとこっちが危ない」と思った。大企業と国が相手で、支援する弁護士も左翼系、順調で平穏だったエリート弁護士生活が失われるかもしれない。中坊は左翼嫌いの父に助けを求め、尊敬する父の反対を口実に弁護団長の役を断ることに決めた。

事情を説明した中坊に父がいった。

「お前をこんなに情けない子に育てた覚えはない。子供に対する犯罪に右も左もあるか。お前はこれまでに一度でも人様の役に立ったことがあるのか。何のためにお前を育てたのかわかってんのか」

中坊はテレビのインタビューや本の対談で被害者の話をする度、涙をこらえ、声をつまらせながら語った。
『金ではなく鉄として』は朝日新聞に連載されていた時から愛読していた。読み終わった本はすぐに捨てる私はこの本をもう5回以上買っている。
何度読んでも涙が出てくる。鉛をのんだような気持になる。自分の部屋でも、電車の中でも、図書館でも、モスバーガーでも、今日はマクドナルドで読んでいて涙が止まらなくなったが、涙の意味はわからないままでいる。(山田)


 

| chat-miaou | 01:01 |
『愛の罪をつぐないます』

 
 

アマゾンでなんとなく買った伊藤素子『愛の罪をつぐないます』をなんとなく読み進めているうちにぐいぐい引き込まれ、最初から読み返し、何度も繰り返し読み返している。面白い。

目がきれいで背が高くて星の王子さまみたいな男に憧れていた銀行員伊藤素子は婚期を逃す。小さい頃からチョコレートの包み紙さえシワを伸ばして小箱にしまうような子供だったので勤めをはじめるとぐんぐん貯金が貯まった。

700万円貯まった頃に、銀行の客だった遊び人と出会う。結局この男に900万円貸すことになる。

「目がええ。くるっとしてチャーミングや。たまには美しい女性と別の世界にとけ込んでいたいんや。ええやろ? 好きや、ほんまや」

口説き上手な男だった。

素子の告白が素晴らしい。

「女性の扱い方をよく知っていたので驚きました。自分の体がこわくなりました」

金の話はラブホテルのベットでした。執拗に愛撫されながらそんな話をされると「はい」と答えてしまった。

「『かわいいなあ』そういって私の肩を抱きました。強く抱いたかと思うと、二の腕のあたりをそっとなであげます。全身が熱くなり、肩に力をいれますと、『敏感な子やなあ』といって南さんは私を抱きしめ、下半身を脱がせました」「急に荒くなったり、やさしくなったり、とにかく、私の体を動物にできる人だと思いました」

挿入されながら頼まれ、入ったばかりの給料も貸した。

初めての海外旅行は南と二人で香港へ行った。ロマンチックな素子は彼と腕を組んでネオンが輝く街を歩きたい、おそろいのブレスレットを買いたい、香港にも、つけ麺大王みたいなお店があるかしら、と夢想した。

そして1981年、素子が33歳の時、つけ麺大王で食事をした帰りの車の中で犯行をもちかけられる。「お前と外国で暮らしたいんや」「お前の人生オレがもろうた」

振込み操作で現金5000万円を引き出し男に渡し、素子は500万円もって一人フィリピンに飛んだが南がくることはなかった。

「彼に抱かれていたときは、何もかも忘れて燃えました」

フィリピンで「南のこと好きですか?」と聞かれた素子は「死ぬほど愛しています」と答えた。(山田)

 

| chat-miaou | 01:01 |
日本の宝

 

デザイナーの友達とコーヒーを飲んでいて、一番好きな作家を聞くと根本敬だという。

私も一番好きな作家を聞かれたら迷わず根本敬と即答する。

「根本さんの本を読んだら世の中が楽しくみえるようになった」

たしかに根本さんの本を読む前と後では世の中が違ってみえる。

「不快を楽しむ」という根本さんの言葉がある。根本さんの本を読むと、威張っている人や、ブチ切れている人や、金とセックスのことばかり考えている人、タカリ、金持ちでどケチ、自慢中の人、説教中の人が一瞬愛しくなり、輝いてみえ、しばらくみとれてしまう。

根本敬が一番好きで、そういう感覚の人が一緒に仕事をするようになっている気がする。芸術家、出版業界で活躍する人の多くが根本さんを尊敬している。

根本さんがクラウドファンディングを募るとすぐにお金が集まる。ファンが心から根本さんを応援しているのがよくわかる。

ナンシー関も根本敬を読むことをすすめていた。青木雄二も根本敬をほめていたという。石野卓球は根本敬が自分のルーツだといい、電気グルーヴの名曲『虹』の歌詞に根本さんの本から言葉がつかわれている。

根本敬を避けて通るわけにはいかず読みたくなるようになっている。読み終えた本はすぐに捨てると決めている私は何度も根本さんの本を買いなおす。何度もお金を出して買わずにはいられないほど読みたくなる。

1『電気菩薩』2『人生解毒波止場』3『因果鉄道の旅』4『映像夜間中学講義録』5『特殊まんが 前衛の道』6『タバントーク』を繰り返し読んでいる。7『夜間中学』も面白い。

根本さんの絵はフランスで人気がある。昔の『ガロ』の古本が外国で高値で取引されている。実は普通の絵も描けるが二度と注文がこないような絵を描かなくてはならないと決めている。そんな人、他にいない。

原稿料がなかった漫画雑誌『ガロ』出身の漫画家たちに魅力的な人が多い。東陽片岡は人物に鼻毛を描かなければ納得がいかない。表紙用に汚くない絵を頼まれても鼻毛を描く、ゴキブリを描く。汚くなければ自分の絵ではないから汚く描く。アニメ製作を決心した杉作J太郎は、たくさんのスタッフが仕事をできるように広い部屋を借り、家賃を払うのに苦労した。製作が正式決定してから部屋を借りればいいのに、それでは納得がいかない。まずは部屋を借りてから行動をはじめるがなかなか進まない。みんな自ら貧乏になる道を選んでかっこいいから、感動したファンが本気で応援する。できることならあんな生き方をしてみたい。

根本さんのラジオのゲストが石野卓球だった。勝新太郎の『サニー』がリクエスト曲だった。次回のゲストは同じ電気グルーヴのピエール瀧で、リクエストが同じく勝新太郎の『サニー』だった。1曲目は石野卓球リクエストの勝新太郎『サニー』が流れ、2曲目はピエール瀧リクエストの勝新太郎『サニー』で、2曲連続全く同じ曲が流れ、そんなラジオははじめてだから感動的だった。

根本さんの本に登場する人たちは魅力的で、私はその中の一人に会ったことがある。根本さんが書くと面白いのに、私が会ったその人は普通の人だった。つまり、根本さんには世の中が凡人と違ってみえている。

好奇心の強い柳田國男がもしも根本敬の本に出会ったらきっとすぐに全冊注文する。柳田國男の描く世界と根本さんの描く世界にはどこか似たところがあり、資料的価値が高い。ドストエフスキーも変人が好きで、ロリコン、タカリ、金持ちでどケチ、ブチ切れている人、唾を飛ばしながら話し威張っている人、人殺しなどを好んで小説に書いた。ドストエフスキーが根本さんの本に出会っても全冊注文する。ドストエフスキーに心酔した青木雄二だから根本敬のよさがわかる。100年後にはロシア語に翻訳された根本敬をロシア人たちが読んでいる。全集も出るだろうし、外国人が根本敬を読む時代がくる。『毛皮を着たヴィーナス』を書いたザッヘル・マゾッホぐらいか、それ以上に世界的に有名になる日が必ずやってくる。それほど面白い。翻訳された文章では微妙な日本語のニュアンスが伝わらない。日本人にしか理解できない空気もある。同時代に日本に生まれ、日本語で根本敬を読める喜びを味わう。

犬のエサ箱をタワシで熱心に磨くおやじがいる。そんなにきれいに洗わず、チャッチャッと水で流せばいい。「でもやるんだよ!」とおやじが怒鳴り、全世界が感動に震える。

誰にも真似できない。インターネットが普及する前、無数のかくれた才能の存在を語る人が多かったが、インターネットが普及し、誰もが平等に文章を発表できるようになり、かくれた才能は存在しないことがわかった。才能が放っておかれることは決してない、インターネットがなくても才能はちゃんと開花していた。根本敬が描く世界も無数に存在するように思えたが、根本さんしか書くことのできない世界だった。(山田)

 

 

| chat-miaou | 05:01 |
『くにとのつきあいかた』

 

15歳の時、池袋の大きな本屋で蛭子能収の漫画を立ち読みしてから夢中になった。汚くて卑猥な絵が多いから電車の中で堂々とページをめくることができなかったが、今すぐに読みたくて家まで我慢できない。それまで読んだことのない漫画で、すっかりファンになった。池袋の本屋で、テレビが伝えるのと違う面白いものをたくさん知った。

JICC出版局の漫画シリーズをみつけ、蛭子さんの『超短編傑作漫画集』とキャロル霜田『ウルトラマイナー』を買い、帰りの電車で笑いをこらえながら読んだ幸福な時間を忘れられない。

20歳の時、蛭子さんの『くにとのつきあいかた』を新刊本で買い、文章のうまさに感動した。名文が並ぶ。読んでも読んでも名文が続く。文章に引き込まれ、蛭子さんに共感して笑う。この本は現在絶版で、刷り部数も少なかったからなかなか手に入らない。また読みたいから探しているのだが、アマゾンにもヤフオクにもない。『思想の科学』という雑誌に連載された文章をまとめた本で、連載中から愛読していた。最初は「不良とつきあう」がテーマで、「ツッパリ漫画で気の良い不良がでてくるが私は信じないし、もしそんな不良がいたとしてもつきあいたくない」ときっぱり書いている。

『くにとのつきあいかた』の続編は『正直エビス』で、こちらは蛭子さんがテレビに出てメジャーになってから出版された本なので刷り部数も多く今でも入手できる。少しやわらいでくるが同じペースで面白さが続いている。

蛭子さんは本を読まないことで有名だが、こんなに面白い文章を書ける。根本敬が「読書量と文章のうまさが関係のないことは蛭子さんの文章を読めばわかる」というようなことをどこかで書いている。

蛭子ファンならわかるが、最近の蛭子さんは文章を自分で書いていない。話した内容をライターがまとめている。蛭子さんの文章ではないことがすぐにわかる。それほど蛭子さんの文章は独自で面白い。蛭子さんにしか書けなかった。蛭子さんは原稿チェックをちゃんとしないことでも有名で、ライターがまとめたままの文章はやはり蛭子さんらしさが薄い。蛭子さんの本は年々面白くなくなっていくのに、売り上げは伸びているのが面白い。

蛭子さんの本から学ぶことは多いので、出ている本は全部読んだ。はじめて『ガロ』に入選した時、奥さんと飛び上がって喜び、アパートでカレーライスでお祝いをした話に感動した。いじめっこや犯罪者に対する見解も素晴らしい。「死んだ方がいい」「犯罪者の遺伝子を残してはいけない」「逃げずに自首しなさい」と正直に書いている。

『くにとのつきあいかた』に「昔の友達」に関する文章があり、傑作の一つだ。頭の中に残って忘れられない。

昔の友達が訪ねてきて、金を借りにくる。昔の友達は金を返してくれたことがない。昔の友達は今でも絵を描いている。蛭子さんは芸術を愛しているが、今では半分は冗談で芸術を愛し、芸術家より生活者として生きている。昔の友達は金を貸してくれたお礼に自分の描いた絵を置いていったが、蛭子さんの奥さんが「そんな絵、みたくもない」と怒った。数ページの文章なのに傑作短編小説と同じ威力がある。しかも入手できないから再読することができず、頭の中で名文が何度も繰り返しよみがえり、さらに名文になっていく。映画化して欲しい。文庫化して欲しい。

太宰治も短編小説『親友交歓』で昔の友達を書いている。声のでかいとても下品な自称友達が太宰を訪ねてきて酒をねだる。奥さんにお酌をさせようとする。井伏鱒二と飲もうと思っていた大事なウイスキーをみつけられてしまい、飲まれてしまい、しかももって帰ろうとする。(山田)

 

 

| chat-miaou | 04:01 |